ビジネス

2020.12.11

道から外れる勇気と考え抜く力 元アスリートに聞く「キャリア戦略」

阿部博一氏


竹崎:なんとなくやって、第一線で活躍できるトッププロっているものなのでしょうか。

阿部:才能に恵まれてプロになった人は、たくさんいると思います。そういう人たちのなかには、才能に恵まれているがゆえに考え抜く必要がない、またはその習慣がついておらず、最大限タレントが開花したならばもっと上までいけたであろうというパターンが多い気がします。一方で、工夫や努力で才能を開花させた人たちもたくさんいます。

例えば、Jリーグ時代になかなか活躍できずにいた選手が、毎日のように寮から練習場までの約10キロを自転車で通っていたという話があります。チームメイトたちからは、練習前に疲れたらパフォーマンスが上がらないぞと言われていましたが、彼は確固たる考えのもと実行しており、その後、プレミアリーグで初めて優勝を経験した日本人になりました。

タレントと戦略のミックスが大事であり、正解はない。結局、自分の最大限のパフォーマンスにどこまでリーチできるかの勝負だと思います。


阿部博一氏

酒井:私自身も、どちらかというとフィジカルを活かすというよりは頭で考えるタイプのプレイヤーでした。今でも印象深く覚えているのは、小さいときにコーチからどのサッカー選手が好きかを聞かれたことです。当時はテレビの情報もあまりなくて、知っている選手と言えばマラドーナくらい。私を含め、チームメイトのほとんどがマラドーナと答えたのですが、チームの中に上手い選手が2人いて、その2人だけは私たちが知らないACミランの選手の名前をあげたんです。

彼らは、親にお願いして有料チャンネルを契約して一流選手のプレイを見ていたらしいんですね。それを聞いたときに、上手い選手は自分で情報を集めて、その情報をもとにスポーツトレーニングを考えているのだとわかりました。これが、情報が大事だと感じた私の原体験です。

情報を集めて、分析して、トレーニングに活かす。この経験がないまま、生まれもった才能や体力だけで勝負していると、サッカー人生に区切りがついた後も、なんとなくふわふわした状態のままだと思うんです。サッカーで得たこの学びは、ビジネスでも活きていて、自ら情報をとりに行き、その情報をもとに考えることは大切にしています。

竹崎:どんなことでも考え抜く習慣がついていると、横展開して活躍できる、ということですね。才能に恵まれていなくてもやっていけると聞き、元気が出ます。

「働いてほしい」と言われる人になる


竹崎:お二人は今、海外で活躍されていますが、海外に出て感じることはありますか。

阿部:日本はやはり、良い大学に行かないと良い職につけないというプレッシャーを感じますね。東大出身の竹崎さんを前にこんなことを言うのはなんですが、なぜ東大生が東大生であるかというと、入試試験で高得点がとれたから。入試試験というものさしで評価されて入ったわけです。けれど、ひとたびその試験に落ちると「お前は全部がダメだ」と言われているような気がしてしまいます。

一方、海外のいいところは、海外の大学院にアプライするにしても、日本の大学名は重視されないんですよ。どちらかというと、大学で何をしてきたかが重要です。学業以外も含めた総合評価で勝負できるので、僕にとってはチャレンジしやすいと感じました。
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文=伊藤みさき 構成=竹崎孝二

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