でもそうではありませんでした。数日から1カ月も経つと......ときには一日で、彼女たちは夜の世界に舞い戻ります。「就職先が見つかった」といって、逃げるように夜の世界から出ていったにもかかわらず、なぜでしょうか?
昼の世界に飛び込んでは、彼女たちが思うこと
それは、生活リズムや労働意識、経済観念をいきなり「昼仕様」に変えるのは、当人や周りが思っている以上に難しいことだからです。
風俗の仕事、とりわけデリヘルの働き方は、昼のそれとまったく違います。365日・24時間好きなときに出勤できて、数時間働けばその日中には報酬が手に入る。そんな夜の世界に対して、昼の世界の常識は「週に5日8時間ずつ働き、遅刻は許されず、給料が振り込まれるのは1カ月先で、その報酬は夜の仕事の数分の1」というもの。共通するところがほとんどありません。
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毎日同じ時間に起きて、同じ場所に出勤すること自体ができない人。自分の収支を把握し、家計をコントロールする習慣が身についていない人。風俗嬢の働き方に慣れた女性の中には、そんな人がいくらでもいます。彼女たちがいきなり転職しても、肉体も精神も順応できず、昼の仕事を続けることができなくなってしまうのです。
そもそも、風俗の仕事は辞めるのに何の手続きもいりません。そのため、夜の世界から自分の意志で遠ざかる人自体は無数にいます。
しかし、彼女たちの「脱・風俗」はなかなかうまくいきません。昼の世界に飛び込んでは、「全然お金がもらえない」「風俗の方が楽」と夜の世界に舞い戻る。そうやって夜の世界を出たり入ったりする女性が、実は大勢います。
セミナーや資格指導の難しさも
昔は、こうした生活習慣的な部分からGAPで指導するべきかと思い、風俗嬢向けの「お金の管理の仕方セミナー」を開催したり、資格勉強の指導をつきっきりで行ったりといった密なサポートも行っていました。
ところが、これもあまりうまく実を結びません。セミナーのことは「他の人と顔を合わせるのは嫌だ」と避けられる。資格勉強の指導をした女性には、後日「試験の朝、寝坊したから受けるのをやめた」と報告されてずっこける。そんなことが日常茶飯事でした。
こうした女性たちの態度に対して、「風俗嬢はやる気がない」「なんで普通にできないんだ」などと腹を立てても意味がありません。良い悪いではなく、単に「そういうもの」なのです。僕にとって重要なのは、こちらの思い通りにならない彼女たちに怒ることではなく、「そういう人でも使える仕組み」を提供できるかどうかだけです。
※この記事は、角間惇一郎氏の新刊『風俗嬢の見えない孤立』(光文社新書)から一部引用したものです。