韓国法相 vs 検事総長が見せた韓国のお国柄

韓国の文在寅大統領(Photo by Jeon Heon-Kyun-Pool/Getty Images)


文在寅大統領も弁護士出身だ。秋美愛法相も政界に出る前には判事を務めた。司法に明るいはずの2人だが、「政治介入」や「国民の不信感」という懸念を振り払ってでも、検察の権力をそぎ落としたいようだ。韓国の検察は、軍や情報機関などとともに、時の政権が権力を維持するための装置として使ってきた歴史がある。

文在寅政権は2017年の発足当時から「検察改革」を重要な政治課題に挙げ続けてきた。元々、文大統領の右腕と言われた曺国元法相がこの問題を指揮していたが、昨秋に噴出したスキャンダルで辞任。政権としては22年5月の任期切れを前に「今回こそは」という思いがあったのだろう。ただ、与党陣営の都合が前面に出るあまり、「国民の司法への信頼」という国民全体の利益がかすんでしまった。

韓国国民の視線は、尹検事総長に同情的だ。韓国の世論調査会社リアルメーターが26日に発表した世論調査では、秋氏の措置が「間違っている」と答えた人が56.3%で、「正しい」の38.8%を引き離した。尹氏自身、すぐに職務排除執行停止訴訟を起こすなど、徹底抗戦の構えを取っている。

一方、法相と検事総長との対立を受け、韓国の検事たちが一斉に抗議の声を上げている。韓国メディアによれば、全国41支庁のうち、40支庁に所属する幹部職ではない検事がこの問題の是非を議論する会議に参加。参加者は全体の9割以上に上り、そのほとんどが、尹検事総長に対する処分に反対の声を上げたという。韓国でも、同じ進歩系の盧武鉉政権時代、検察改革に反発した検事たちが反発したことがある。

これに対し、日本では検事が個人的な意見を述べるケースはほとんどない。これも、黒川氏を巡る問題だが、同氏の定年延長問題を巡り、今年2月に法務省で開かれた全国の高検や地検のトップが一堂に会する「検察長官会同」で、参加した検事正から「国民に経緯を説明すべきだ」との意見が出たことが報じられた程度だ。

先の日韓の法曹界に詳しい関係者は「日本では、検察官は公益の代表者であり、不偏不党の組織の一員という意識が強い。このため、政治に絡む発言は控えるべきだという考えが背景にある」と語る。外部への発信が必要だと判断した場合は、個人ではなく組織として発言する傾向があるという。
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文=牧野愛博

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