韓国法相 vs 検事総長が見せた韓国のお国柄

韓国の文在寅大統領(Photo by Jeon Heon-Kyun-Pool/Getty Images)

韓国の秋美愛法相が11月24日、尹錫悦検事総長の懲戒を請求し、検事総長の職務執行の停止を命じたと発表した。韓国憲政史上初の異常事態だ。尹検事総長は従来、与党関係者を巡る疑惑にも切り込み、与党から白眼視されてきた。法相と検事総長のバトルを巡って起きた様々な事象を読み解くと、韓国のお国柄や日本との違いが浮かび上がる。

秋、尹両氏を任命した文在寅大統領は沈黙している。秋氏は事前に尹氏に対する処置を報告していたため、「大統領が黙認、あるいは指示したことは間違いない」(与党関係者)という状況だ。

「法制度の違いを抜きにしても、こんなこと、日本だったら絶対にあり得ないですよ」と語るのは、韓国の司法界に詳しい日本の法曹関係者だ。関係者は「法相と検察トップが、職務権限を巡っていがみ合う姿を国民の目にさらしたらどうなるのか。検察の中立性への信頼は地に落ちてしまう」と語る。

仮に日本で同じような事態が起きたらどうなるか。関係者は「まず、検事総長自らが進退を処す。検事総長という地位にある人間はそうするし、仮に検事総長が嫌がったとしても、周囲が辞職を促すだろう」と語る。日本の法相が首相に検事総長処分のお伺いを立てた場合、「首相は絶対に止める」という。そんな事態を引き起こせば、国民の失望と不信を買うことは火の目を見るよりも明らかだからだ。

確かに、日本の過去の事例をひもとくと関係者の言葉には頷く点が多い。日本にも、法相の指揮権が、検察庁法14条で定められている。法相は個別の事件の取り調べや処分について「検事総長のみを指揮できる」とする。検察の暴走に歯止めをかけつつ、政治家による捜査現場への不当な介入を防ぐ目的で設けられている。

実際に発動されたのは、1954年の造船疑獄事件で、当時の犬養健法相が、自由党の佐藤栄作幹事長の逮捕を延期させた例までさかのぼる。2012年には、小川敏夫法相(当時)が6月4日の退任会見で、東京地検特捜部の検事が事実に反する捜査報告書を作成した問題をめぐり、「指揮権の発動を決意したが、野田佳彦首相の了承を得られなかった」と明かしたこともある。日本でも検察に対する不信の声がないわけではないが、安易な政治介入はより厳しく批判される。

また、日本では東京高検の黒川弘務検事長が今年5月、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言中に新聞記者らとマージャンをしていたと報じられた問題が記憶に新しい。5月20日に週刊文春(電子版)がこの問題を報じると、法務省は翌21日、黒川氏辞任の意向を首相官邸側に伝えた。ことの是非はともあれ、迅速な辞職により、国民の間に検察への不信が広がることを食い止めようとしたわけだ。
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文=牧野愛博

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