3日間に及ぶ開票プロセスを通じて、アメリカの「分断」の構造がよくわかった。よくいわれている、ニューヨークを含む北東部とワシントン州、オレゴン州、カリフォルニア州の西海岸が民主党で、一部の例外を除いて内陸部や南部が共和党、という色分けは、必ずしも本質をついていない。
地理的な区分でいうと都市部が民主党、町村部が共和党、そして、都市部の郊外が中立という色分けになっている。郊外は中産階級で、民主党にも共和党にもなり得る。都市部の民主党支持層は、高学歴・高所得の層と、所得がそれほど高くない公的支援を必要とする層を含んでいる(ここが民主党のなかの中道と左派の内部分裂につながりやすい)。
今回、バイデン候補が、これまで共和党の牙城であったジョージア州とアリゾナ州を制したのは、この両州で、都市化と他地域からの人口流入が起きていたからと分析されている。
トランプ大統領が、大統領候補テレビ討論で、白人至上主義の団体を非難することをためらったばかりか、その団体員に対して、「いまは待機しろ」と呼びかけたことで、大きな非難を招いた。さらに白人警官による黒人の過剰武力行使や射殺が相次いだ時も、トランプ大統領が警官を問題視せず、むしろBlack Lives Matter運動の抗議行動の一部が暴徒化すると、そこで「法と秩序」を叫んで支持の拡大に努めた。
これが白人と黒人の人種問題の先鋭化につながったという指摘もあるが、このような白人至上主義への支持に広がりはなかった。白人・黒人という切り口は分断の証拠にはならない。
今回の選挙では、史上最高の投票率を記録した。政治参加という意味からは素晴らしいことだ。実はトランプ大統領も4年前の選挙よりも多くの投票数を獲得している。バイデン氏が、4年前のヒラリー・クリントン候補よりもはるかに多くの支持者を投票所と郵便投票に導いて勝利した。トランプ支持者はさらにトランプ支持を確信し、バイデン支持者が覚醒して投票に向かった。トランプ支持者が、トランプの言動や政策に幻滅してバイデン支持に転換した、ということではないようだ。ここは心配な兆候である。
伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学特別教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D取得)。1991年一橋大学教授、2002〜14年東京大学教授。近著に『Managing Currency Risk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2nd Edition、共著)。