そして、もう一つ疑問と興味を抱いたのが、彼女たちの『未来』です。時が経ち、彼女たちもいずれ『娘』から『母』となる時が来るでしょう。
『今』は自分でも納得し、揺るぎない信念を持っているかもしれませんが、果たしてその『未来」では……? そもそも、結婚相手として考えた時にAV女優であったことはどのように思われるのか、家庭を築く時にその過去は隠すのか、子供を産むことは彼女たちにどのような思いを抱かせるのでしょうか。
AV女優とその家族の関係性にフォーカスして浮かび上がってくるもの、それは現代社会における家族の新しい形を示しているのかもしれません」
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綺麗事では済まされない、リアルな「家族の話」
著者によれば、AV女優の仕事が親にバレたことでAVを辞めたり、離婚することになった人もいるという。確かにAV女優という仕事は、ほかの職業とはすこし違うのだろう。AV女優をしていることがバレた後、両親との関係はどう変化したのか、妹や弟はどんなふうに思っているのか。自分の子供に将来AV女優の仕事を知られることに抵抗はないのか──。著者は彼女たちに質問を投げかける。
家族についての踏み込んだ質問に、読んでいるこちらのほうがドキドキさせられてしまう。「極力前向きな内容の本にしたい、でも綺麗事は一切書きたくない」という著者の言葉通り、ここでは綺麗事だけでは済まされないリアルな「家族の話」が語られている。
「周りの誰が批判しても、両親だけにはわかってほしいし、自分がすることを理解してほしい」(当真ゆき・つむぎ)という言葉からは、家族にこそ自分のことを理解してもらいたいとの切実な想いが伝わってくる。
辞めるも進むも、自分次第
小学校の頃からジュニアタレントとしてCMやファッション雑誌などで活躍してきた白石茉莉奈さんは、AV女優をしていると家族に伝えた時のことを次のように語っている。「親の方が深刻な感じでしたね。『旦那や子供は知っているのか』とか『あなた自身はどうなりたくてこの仕事に就いたの?』とかまぁ色々言われましたね。でも、素直に言ったんですよ『ちゃんとこの仕事でやってみたいから』って」。
両親に真っすぐ気持ちを伝え、家族に応援されながら働く女優たちのなかには、妹と食事や旅行に出かけたり、良好な関係を築いている女性たちもいる。両親だって、大切に育ててきた娘の活躍を応援したいという気持ちがあるにちがいない。大事な、家族の一員であることに変わりはないのだから。
著者によれば、彼女たちからは、自分の人生を納得のいく充実なものにしたいという前向きな姿勢が伝わってきたという。辞めるも進むも自分次第。
AV女優のなかには結婚、出産し、ママをしながらAVに出演している女性たちもいる。家庭と仕事どちらも大切にしながら夢を追いかける彼女たちの姿は、現代のすべての女性たちのロールモデルと重なるようにも思える。
※本稿は、寺井広樹氏の著書『AV女優の家族』(光文社新書)から一部引用し、紹介したものです。