自治体が運営する全国の配偶者暴力相談支援センターと政府が運営する「DV相談+」に寄せられたDVの相談件数は、5-6月は前年同期比で約1.6倍の1万7500件、7-8月も1.4倍の1万6000件と増加傾向が続いているという。
そんな中、耳鼻咽喉科医師で、アートコミュニケーターの和佐野有紀氏は振り返る。「先日も、私の病院に彼氏に殴られた顔面を抑えながら、20代前半の女性が付き添いもなく、たった一人でいらっしゃったんです」。
白いタオルは血に染まり、右目は腫れあがり開けることができず、鼻にも恐らく目から流れ込んだ血液があふれていたという。必要な検査を淡々とうけていた彼女は、恐らく加害者がいるであろう場所へ再び帰っていった。
DV被害者を目の当たりする医師の目に、この問題はどのように映るのか。話を聞いた。
──コロナ禍でDV被害が増えているという。実感は?
私自身もニュースなどでDVの情報を見ているので、多少のバイアスがかかっているかもしれないし、コロナとの因果関係はわからないが、男女間の問題だけでなく、ご老人への虐待・DVなど、確かに在宅時間が増えるに伴い、受診の回数は増えているような肌感覚は相対的に持っている。
殴られて鼻血が出たり、鼻の軟骨が傷ついたり、ひどいときは目のところに痣ができて腫れ上がっていたりするケースもある。恐らく、加害者本人も不本意ながら、ちょっとした行き違いなどが重なった結果、ふいに素手で相手を殴り、傷つけてしまっているようにも見える。ただ、ご老人の場合、顔の他にも体中にあざがあるようなケースもあるのが心配だ。
ご老人の場合は、恐らく加害者である人間(たとえば息子)が連れてくるケースもあるのだが、もちろん、両人ともにDVのことは一切触れることはない。
──受診される方はどのくらいのご年齢が多いのか
すごい若い方、20代は少ない。30-40代に一つ山があり、60-70代にもう一つの山がある印象だ。それらの年齢は、ライフスタイルの変化など、ストレスがかかる事が多いのではないかと推察する。
──やはり加害者は男性が多い?
男性が女性に加害されたケースは少なくとも私はほとんど見たことがない。また、三世帯家族など、大家族内で起こりにくいのも特徴。ほとんど、孤立している状況の中で、DVは起こりやすい。さらにいえば、居住環境の広さ、自身の時間を持てるかなど、ストレスや人間関係から一定程度距離を置ける環境にいるのかも関係しているように思う。当然、そのベースには経済環境も多々影響しているだろう。
──病院に受診に来るタイミングはDV直後が多いのか
そうでもないように思う。次の日、一日おいた次の日などに、耳が聞こえにくくなった、痛みが続いているなどの理由で来られることが多い。基本、受診はしたくないけれど、気になる症状があるので、相手に気づかれないタイミングで来られるというパターンも少なくない。