変異による新型コロナの感染力増大、ゲノム解析では確認されず

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新型コロナウイルス感染者数千人から採取したウイルスのゲノム(遺伝情報)を解析したところ、遺伝子変異でヒト間の感染力が増したという証拠は見つからなかった。

英ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)などの研究チームがこのほど、ネイチャーに発表した調査研究で明らかにした。新型コロナウイルスは早い段階で変異した結果、急速に拡大できたと示唆する既存の研究と矛盾する結果になっている。

UCLやオックスフォード大学などの研究チームは、新型コロナウイルスは変異によって感染力が強まっているかどうかを調べるため、ウイルスの系統樹を作成し、特定の変異がウイルスの各世代で多く見られるようになったかどうか解析した。

チームは世界各地の新型コロナウイルス感染者5万人近くのウイルスのゲノムを解析し、1万2706の変異を特定した。しかし、中国東部から欧米に広がったD614Gという変異を含め、これらの変異のどれも、ウイルスの感染力を強めているという証拠は確認されなかった。D614Gはこれまで、感染者により深刻な症状を招くことなくウイルスの拡大を速めてきたと言われてきた。

論文の第一著者であるUCLのルーシー・ヴァンドープ博士は、新型コロナウイルスは発見された時点ですでに「ヒト間の伝染に十分適応していたようだ」との見方を示す。筆頭著者のUCLのフランソワ・バルー教授によると、ウイルスがヒト間で初期に適応した時期を研究者たちが見落としていた可能性もあるという。

新型コロナウイルスの遺伝子構造を知ることは、今回のパンデミック(世界的な大流行)への効果的な対応策を策定・実施するうえで非常に重要だ。たとえば、変異によってこのウイルスによる死亡率が高まったり、感染力が強まったり、さらにはワクチンが効かなくなったりする可能性もあるからだ。

実際、デンマークでは、突然変異を起こした新型コロナウイルスがミンク農場で検出され、国内で飼育されているミンク全およそ1700万匹の殺処分が命じられる事態になった。開発中のワクチンの有効性を脅かすと懸念されていたこの変異型は、現在は根絶されているとみられているものの、世界保健機関(WHO)は感染拡大にミンク農場がどうかかわったのか、調査を行っている。

新型コロナウイルスのワクチンの実用化が近づいているだけに、ヴァンドープは「引き続き警戒を緩めず、新たな変異をモニターしていく」必要があると強調。バルーも、今後、ワクチンが効かなくなる変異が起きる可能性もあると注意を促している。

編集=江戸伸禎

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