SDGsやESG経営といった、持続可能な未来への取り組みが重要視される現代。どの企業も「成長したい」と同時に「持続可能な社会に寄与したい」と口をそろえるが、両立は決して容易ではない。だからこそ、利益性のある事業とは別にCSR活動が展開されていることが少なくないのだ。
ではここで、容易ではない両立を叶える企業の話をしよう。
「社会貢献」を会社のミッションとして不動産コンサルティング事業、自然エネルギー事業などを展開する、霞ヶ関キャピタルだ。設立からわずか7年でスピード上場を果たし、上場後も成長を続ける同社。
社会貢献と収益性の両立を叶える仕組みとはなにか。なぜ、成長し続けることができるのか。
取締役の廣瀬一成と執行役員の佐田健介、この二人の話から、コロナ禍においても成長を加速させる同社のビジネスモデルと組織像に迫った。
創業時から変わらない成長軸は「社会貢献」
2011年、東日本大震災で被災した宮城県のショッピングセンターを再生することから、霞ヶ関キャピタルは、ビジネスをスタートさせている。震災で日常を奪われた人々にとって、ショッピングセンターの復興には大きな意味があった。
一方で、震災直後の混乱の中で、東北地方において、新たな不動産事業に乗り出すことは目に見えてリスキーだ。それでも創業メンバーは「自分たちが今やらなければ、東北地方を救えない」と奮起し、ショッピングセンター再生に着手した。
原発事故により原子力発電の安全性が揺らぎ、その代役を担う新たなエネルギーの必要性が叫ばれるようになっていた当時。同社は、ショッピングセンターの屋上に太陽光パネルを張り、自然エネルギーで電力事情の悪さを解消するプロジェクトを立ち上げた。
結果、このプロジェクトは社会課題の解決策となり、のちに自然エネルギー事業として全国展開。霞ヶ関キャピタルの大きな収益源になった。そしてその後も、不動産コンサルティング事業など、「社会貢献」を軸に幅広い事業展開を推し進めていった。
2016年3月に入社した廣瀬は、同社のIPOを実現に導いた。霞ヶ関キャピタルは、なぜ「社会貢献」を軸としているのか、その理由についてこう語った。
「世の中をよくする仕事には、大きな需要と実現への強い信念があります。だからこそ、成長性がある。私たちの経営理念は “その課題を、価値へ。” です。つまり、社会的なニーズに収益性を見出し、自らのファイナンス手腕を持ってビジネスを成立させ、社会課題を解決することが使命。よりよい社会づくりに貢献していきたいというのが、私たちの思いです」(廣瀬)
取締役 経営企画本部長 廣瀬一成
「社会貢献」と「収益性」の両立を支える、独自のビジネスモデル
とはいえ、「社会貢献」と「収益性」を両立することは、簡単ではないはずだ。
「社会課題を価値へ変えていくためにまず必要なのは、時代を見据えた鋭いマーケット感覚です。創業メンバーだけでなく社員の多くは、不動産業界や金融ファンド業界で経験を積んできた人ばかり。今、社会のどこに課題があり、それをどうファイナンスで解決していくかを常に考えています」(廣瀬)
さらに、戦略的コンサルティング型ディベロッパー(用地活用の企画、販売)と、成功報酬型マネージャー(ファンド運用)の2つの顔を持つ独自のビジネスモデルが、その収益性を高めているという。
「私たちは用地活用の企画を立てて投資商品を開発し、ファンドや事業会社などの投資家に提案。投資家からの資金調達により商品を開発し、完成した商品を投資案件としてさらに投資家に提供しています。このビジネスモデルの特筆すべき点は、開発にかかる自己負担が少なくて済むということです」
通常であれば自社の資金で用地購入・開発を行うが、同社は不動産開発ファンドなどへの企画提案により、開発資金を外部調達。その資金をもとに開発を行うので、完成まで自己資金負担が少なくて済むというわけだ。結果として、高いROE(自己資本利益率)を維持することが可能になる。
不動産・ファンド・金融に関する深い知識と経験を持つ組織ならではの、このビジネスモデルこそが、「社会貢献」と「収益性」の両立を叶えていた。
時代を捉える柔軟な事業展開の数と、コロナ禍で打ち出した新規事業
霞ヶ関キャピタルの独自性は、ビジネスモデル以外にもある。それが、驚くほど柔軟でスピーディーな事業展開だ。
ビジネスフィールドを「今、解決すべき社会課題」の中に見つけ、そこにすぐ踏み込んでいく。だからこそ事業内容は多岐に渡っている。
例えば、新型コロナウイルス流行前に力を注いでいたのは、アパートメントホテルの開発や保育施設の不動産コンサルティングだ。
「アパートメントホテル事業はインバウンド効果をしっかりと享受するために着手したもの、2021年以降は必ずまた求められます。今の日本のホテルの多くはツインルームがベース。これでは家族や団体旅行にマッチしません。そこで定員4名以上のホテルを開発し、観光客の宿泊費を抑え、同時に周辺地域での消費を促進できればと考えました」
つまりアパートメントホテルが叶えるのは、インバウンド効果の享受と地域創生。
同社がアセットマネジメント業務を担う「FAV HOTEL TAKAYAMA」(2020年10月26日オープン・岐阜県高山市)はキッチン、洗濯機、冷蔵庫などを全室標準完備。最大6名まで宿泊可能な部屋もあり、グループでの中長期滞在に最適なホテルとなっている。
「そしてもう一つが保育施設。手掛ける理由は、待機児童問題は、女性の社会参加や少子高齢化にもつながる大きな課題だと捉えたからです。これを解決するために、現在は都内を中心にした認可保育園の開発などを進めています」(廣瀬)
さらにコロナ禍において、以前から計画を進めてきた新規事業を満を持してスタートさせた。伸び続けるEC需要を支えるべく、物流のフィールドに事業を展開したのだ。
「物流事業では、フロン規制対応型の冷凍冷蔵倉庫のコンサルティングを行っています。この事業における目的は、物流事業における冷凍冷蔵倉庫不足の解消と地球温暖化防止。より便利で、地球にやさしい社会づくりを目指します」(廣瀬)
社会課題をつぶさに見つけ、「社会をよくしたい」という信念に基づき、柔軟に事業展開をしていく。
これが霞ヶ関キャピタル流のビジネスであり、成長の要因なのだ。
変化を起こす側へ、回れ。
2019年から2020年にかけて、社員数を大きく増やしてきた霞ヶ関キャピタル。その採用メッセージは「変化を起こす側へ、回れ。」
人事を担う佐田は、現在の社内の雰囲気や組織づくりについてこう語る。
「2018年に20名程度だった社員数は、今や100名を越えました。この人数の増加にともない新しい組織づくりを進めています。“変化を起こす側”であるのは、私たちバックオフィスのメンバーも同じ」(佐田)
スピーディーな経営スタイルや事業展開は成長を加速させるが、時に社員を疲弊させることもある。その点については社員の声を拾う仕組みや機会づくり、経営層の考えを社員が納得いくまでしっかりと伝えることで、解決をしていきたいと語る。
「企業体制も柔軟に作っていくことができるのが、私たちの強みです。まだまだ成長段階。未成熟だからこそ、今必要なことに注目し、自分たちなりの働きやすい環境、制度、組織を作っていきたいですね」(佐田)
執行役員 経営管理本部長 佐田健介
まずは人事制度や社内ルールなど整え、個々のスキルと働きを評価できる仕組みを作っているところ。さらに今後はチームで成果を出すための体制づくりにも力を注いでいきたいという。
「これまでは、個々が主となり商機を発見していました。しかしこれからは、それぞれのメンバー達がアイデアを出し合い、チームプレーで案件を大きく展開できる組織にしたい。それを実現するために、人事、組織面を整えるのが私の仕事です。それぞれの持つ、オンリーワンのスキルを存分に発揮し、それを増幅していける土壌づくりをしていきたいですね」
事業、組織、人。それぞれの変化で、さらに成長を
業界のプロフェッショナルが揃う霞ヶ関キャピタルだからこそ、組織の中で一流の技術を学び合うことができる。
ポストコロナで物流事業への参入が加速され、新たなフィールドで未知の挑戦をしているメンバーは、そこでさらなるスキルを身につけ、オンリーワンの人材に成長していくだろう。廣瀬、佐田はそれを何より楽しみにしているという。
「時代は常に変化し、ときに予期せぬ変化が起こるものです。そんな、新たな社会のニーズが誕生する時こそ、我々にとってのチャンス。時代と共に私たち自身も変化し、変化することを楽しんでいきたい。社員全員がそう思える組織を作ることが、私の仕事です」(佐田)
社会課題の中に商機を見つけてきた霞ヶ関キャピタルは、コロナ禍でも成長のカギを見つけ、柔軟に変化しながらそれを乗り越えようとしていた。
そんな霞ヶ関キャピタルが、今後は組織をどう変化させていくのか。同社の今後のビジネスの展開とともに、その組織作りについても、さらにのぞいてみたくなった。