研究チームは、唐辛子の摂取が健康に及ぼす影響を明らかにするため、複数の大規模データベースで見つけた既存研究を5000件近くレビューした(そう、唐辛子を扱った研究は、すでに何千件もあるのだ)。
それらの研究からチームは、米国、中国、イラン、イタリアにおける50万人超分の唐辛子摂取に関するデータを導き出した。
そしてそれを基に、唐辛子を食べる人と、唐辛子をほとんど、あるいはまったく食べない人の健康転帰を比較した。比較したのは、両群の全死因死亡率、心血管死亡率、がん死亡率だ。
今回の研究レビューでは、例えば小児や動物を対象にした研究は採用しないなど、さまざまな除外基準を設けた(飼い犬にチリコンカンを分けてやったり、乳児用粉ミルクにチリパウダーを混ぜたりしてはいけない)。そして分析の結果、唐辛子を好む人にかなり有利な結果が得られた。
全死因死亡率とは、読んで字のごとく、死因を問わない死亡率のことだが、それが、「唐辛子を食べる人」では「食べない人」に比べて25%も低かったのだ。
しかし、主に生活習慣行動と健康転帰を調べた研究には、いくつかの弱点がある。
2019年に学術誌「The Journal of the American College of Cardiology」に発表された研究によると、唐辛子を食べる人と食べない人、合わせて2万2000人超を調査したところ、唐辛子を食べる人は食べない人に比べて、心疾患で死亡する確率が44%、脳卒中で死亡する確率が60%以上低いことが明らかになった。
いずれの研究も、唐辛子の抗炎症および抗酸化特性が、血管の健康やがんの予防、および総合的な栄養状態に有益な影響をもたらすと考えているが、同時に両研究とも、得られた研究結果に限界があることを認めている。
今回の研究も2019年の研究も、あくまでも観察研究、すなわち、行動を観察し、その行動が及ぼす影響を報告する研究方法だ。これは、ランダム化比較試験やコホート研究といった、より強力な研究方法とは異なる。こうした研究方法であれば、食事に最初から介入し、研究参加者の半分にはある特定の食事法を実践させ、もう半分にはまた別の食事をとらせることになる。
加えて、人々の食事のあらゆる側面を考慮に入れる必要があるし、「食事のみが健康に影響を及ぼす要因だ」という前提に立たなくてはならない(実際にはそうではないが)。さらに、食事と生活様式について研究する場合、唐辛子を食べるか否かだけでなく、他にも数え切れないほど多くの考慮すべき要因がある。例えば、唐辛子を食べている人たちは他の果物や野菜も食べており、唐辛子を食べない人に比べて全般的により健康的な食事をとっているのかもしれない。