起業の後押しをした、私の中の「日本人としての原点」

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、みらいワークス代表取締社長の岡本祥治が「武士道」を紹介する。


『武士道』は、海外の方に日本人の考え方を知ってもらうため、全編英語で書かれた書物でした。著者である新渡戸稲造が、ベルギーの法学者ラブレー氏に「日本の学校には宗教教育がないのに、どうやって道徳的教育を授けているのか」と尋ねられ、考えた末に、ようやくたどり着いたのが、武士道だったといいます。
 
本書では、武士道をかたちづくる、義、勇、仁、礼、誠などが一つひとつ章立てされ、丁寧に説明されているほか、日本のシンボルである桜花と同じように、武士道が日本に根付いた文化であり、時代は変わっても滅びることはないとも記されています。
 
私が初めて本書を読んだのは、起業する少し前のことでした。当時、アクセンチュアに勤務していた私は、コンサルティングという仕事のおもしろさに夢中になり、気づけば30歳手前。自分が成すべきことを探すためにこの業界を選んだはずが、その目的を忘れて、すでに数年が経過していました。
 
読み終えて、真っ先に浮かんできたのは、「日本を元気にしたい!」という思いでした。
 
私は海外旅行がとても好きで、これまでに世界90以上の国・地域を旅し、食はもちろん、街並みや人、歴史に触れてきました。しかし、海外に行って感じるのは、日本ほど素晴らしい文化をもっている国はないということです。

東日本大震災の時、ルールを守り、調和を大切にしながら生活する日本人の姿が海外で驚きをもって報じられましたが、あのような状況下で規律よく生活できるほかの国を、私も見たことがありません。
 
ただ残念なのは、素晴らしい国である一方で、地方に行けば以前は栄えていたであろう駅前の商店街にはシャッターが下りている店ばかり。若い人たちは仕事を求めて、都市部へと移動しています。
 
こういった社会問題を解決し、日本を元気にすることこそが、私の成すべきことではないか―。日本の良さを生かしながら、経済を発展させるために、起業を決意。背中を押してくれたのは、間違いなく本書です。
 
その後、スタートアップのときも、上場した後にも読み直しました。おもしろいのは、読むたびに新しい発見があることと、自分がそのときにおかれている状況によってアンテナが立つ箇所が違うということ。これが、発刊から80年以上経ったいまも、世界で読み継がれている理由のひとつなのでしょう。
 
皆さんの中にも武士道は脈々と流れています。その、自身のコアにある「武士道」をぜひ感じてみてください。


おかもと・ながはる◎1976年、神奈川県生まれ。2002年に慶應義塾大学理工学部を卒業後、アクセンチュアに入社。ベンチャー企業で新規事業立ち上げなどに携わり、12年に専門知識をもつ人材と企業のマッチングをする、みらいワークスを設立。17年に東証マザーズ上場。

構成=内田まさみ

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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