音と光に鋭敏になる中軽井沢「森の生活」

川上シュン artless Inc.代表

アートディレクター、グラフィックデザイナーとして世界で活躍しながら、グラフィックやインスタレーション作品も精力的に発表し続ける川上シュンさんに、2拠点生活の魅力や、こだわりの趣味の世界について聞いた。


artless Inc.はアジア、ヨーロッパ、アメリカなどグローバルに活躍するブランディング・エージェンシーで、建築家やインテリアデザイナーとパートナーシップを結び、建築からインテリア、サイネージからグラフィックまで一気通貫したブランドデザインを行っています。

最近だと、ホテルでは松本・浅間温泉の「松本十帖」、箱根の「HakoneRetreat」、中国・河南省の「MIST Hot Spring Hotel」、飲食関係では京都・新京極のドーナツファクトリー「koe donuts」や岡山県のダイニングアウト・ピザ「koe pizza」、ベルリンの日本食レストラン「JABE Berlin」などのブランディングを手がけました。

日本の地方でも世界でも“ローカライズ”を大切にしつつ、日本人としての美意識で生かせるものを探し、デザインするよう心がけています。

生まれは東京の門前仲町。祖父も父も深川育ちなので、小さいころから江戸文化にはなじみがありました。「川並鳶」という木場で材木の管理・運搬などに携わる江戸時代から続く仕事があるのですが、祖父は「最後の川並(鳶)」といわれた人だったそうで、深川2丁目の総代も務めていました。深川に関する文章を書きたい作家などがよく祖父を訪ねてきていたそうです。
 
ただ後年、この仕事をするうえで、やはり京文化というか、安土桃山文化の造形を深めたいと感じて……。日本絵画の狩野派や長谷川等伯、茶人の千利休など興味ある対象を学ぶべく、2015年から京都にも部屋を借り、東京との2拠点生活を5年ほど続けました。

その後、「森と自然との共生とは?」という問いが大きくなり、今年の3月末からは中軽井沢との2拠点生活に移行。週2〜3日は東京、残りは中軽井沢でのリモートワークという暮らしです。自宅のすぐそばには「軽井沢野鳥の森」があって、夜はまことの漆黒、朝は鳥の声で目覚めます。おかげでたった5カ月ですが、聞こえる音の数が増えたり、温度や風を敏感に感じたり、光の移り変わりで時間がわかるようになりました。

なにより自然の中では人間なんて非常に無力な存在であるということをあらためて認識しましたね。「都市と自然の共生」を自ら体現するなかで、これから自分や家族、つくるものにどんな変化が生まれるのか、とても楽しみです。
 
趣味は日本茶とコーヒーです。お店を開けるほど道具も茶葉も豆も集めてしまうタチなので、だったら小さくスタートアップしようと、「artless craft tea & coffee」をオープンしました。

僕の仕事であるブランディングはコンサル寄りというか、実際のマーケットとは多少の距離が生じますが、日本茶やコーヒーという小さな単価の品物を対面販売することで、日常をリアルに知る術を得られたかなと。

「雨が降ると売り上げが落ちる」というけれど本当だなとか、現場が求めているデザインや使いやすさ、サステナビリティやエシカルへの関心など、MBAのケーススタディだけではわからなかったことを理解できたように感じます。マクロとミクロの2つの視点というか、小さなビジネスやスタートアップを実際に行うことで仮説では見えなかったことが見えるようになるはずなので、お勧めしたいです。
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構成=堀 香織 写真=yOU(河崎夕子)

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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