ボビー・バレンタインの弟子が挑む、日本野球「世界一」への道

.ソフトバンクGM補佐 兼 スカウト・育成部ディレクター 嘉数駿

.ソフトバンクGM補佐 兼 スカウト・育成部ディレクター 嘉数駿

日本のプロ野球は国内市場の収縮や野球人口の減少が不安視されている。だが、市場は国内だけだろうか? 実は「世界一」はそう遠くないのだ。
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2019年2月、嘉数駿は日本の球団と3度目の契約を結んだ。嘉数はハーバード大卒業後、野球未経験ながら野球界に飛び込み、国際的スカウトとして日米の球団を渡り歩いてきた。

計5球団目となる所属先はソフトバンクだった。肩書は「GM補佐 兼 スカウト・育成部ディレクター」。スカウティングとチーム編成は変わらず重要な役割だが、もう一つ、壮大な任務が加わった。「世界一」になること。

「オーナーの孫正義は2005年の球団創設時、『めざせ世界一』というスローガンを掲げました。スタートから15年で6回日本一になり、収益も上げている。ただ、世界一に近づけたかというと、近づけてはいない。15年前の宿題にもう一度、ちゃんと向き合いたいので力を貸してくれないか、ということでソフトバンクに入ったんです。ただ、何をするんですかと聞いても、わからない、と。そこも自分たちで考えろということなんだと思います」
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嘉数は野球はほぼ未経験だが、プロ野球の大ファンだった。

「野球は小学生のときに少しやってたんですけど、プレイ自体が楽しいと思ったことがないんです。打席はなかなか回ってこないですし。中学、高校はバスケットをしていました。プレイするのならバスケット、観るなら野球がいちばんですね」

嘉数はそもそも映画監督になるためにハーバード大学教養学部に入学した。だが、これから就職活動を始めようとしたときに運命の書と出合う。2003年に出版され、アメリカでベストセラーになった『マネー・ボール』だ。

同書は、貧乏球団アスレチックスのサクセスストーリーである。他チームと同じスカウティングでは勝ち目はないと悟ったGMのビリー・ビーンは、旧態依然としたスカウトたちに頼ることをやめ、野球は未経験だが、熱狂的な野球ファンであるビル・ジェームズの方法論に注目する。ジェームズはセイバーメトリクスの考案者でもあった。セイバーメトリクスとは、打率や本塁打ではなく、これまで重要視されなかった四球数をはじめとする出塁率に着目したまったく新しい選手の評価基準だ。結果、アスレチックスはリーグ最低クラスの年俸総額だったにもかかわらず、2000年代、プレーオフの常連球団に生まれ変わった。

野球は未経験だが、野球を観るのは大好き。嘉数はジェームズと自分を重ね合わせた。目の前に新たな道が開けていた。
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文=中村 計

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