MLBもNBAを参考にし、国際戦略を推し進めているが、野球はルールの複雑さや、使用する道具の多さが足かせとなり、思ったほど効果を上げられていない。プロリーグを海外で根付かせるためには3つの柱がある。競技人口と、テレビ中継と、地元のスター選手だ。それらは密接に関わりあっていて、どれも欠くことはできない。
中国で成功を収めたNBAは次のターゲットとして人口世界第2位、13億人を誇るインドに絞っている。インドの人口は10年以内に14億人の中国を抜くだろうといわれている。NBAはインドで試合を中継するだけでなく、1万人の体育教師を訓練するなど草の根活動にも余念がない。
実は日本球界も以前、世界を見据えていた時期がある。2008年の北京五輪直前、盛んに中国球界に投資していたという。
「ソフトバンクも含め、2006年、07年あたりは、中国と人材交流や業務提携が行われていた。でも五輪が終わって潮が引くように撤退してしまった。オリンピックで中国が最下位に終わって、しかも北京を最後に、野球がオリンピック競技から外れてしまったことが大きかったんでしょうね」
その後、日本と入れ替わるように中国に狙いを定めたのがMLBだった。その種は確実に芽吹きつつあるという。
「アメリカはすでに7、8人の中国選手とマイナー契約を結んでいます。155キロくらい投げるピッチャーもいる。その中から来年、メジャーリーガーが誕生する可能性もある。中国は機が熟しつつある。われわれも中国だけを見ているわけではありませんが、今、中国はチャンスだと思いますね」
ソフトバンクは2018年、インバウンド推進室を設立。同部署は「スポーツ振興部」と連携し、上海で野球教室を開催するなどすでに新たな取り組みに着手している。
ソフトバンクに移り、1年半が過ぎた。嘉数の目に映る景色が少しだけ変わった。
「『マネーボール』を読んだときの夢は、GMになることでした。今もその気持ちはあります。ただ、それも手段になってきたような気がします。もっと広い視野で、野球の未来を考えるようになった。ただ、これからもずっとオフィスにいるような仕事は嫌ですね。やっぱりいろんな世界で野球を観ていたいので」
嘉数の根っこは、今も生粋の野球ファンのままである。
かかず・しゅん◎1981年、東京都生まれ。東京大学中退、ハーバード大学卒。日米5球団で選手の評価体制構築を行う。日本、韓国、台湾でのスカウト活動やソフトバンクのカーター・スチュワート獲得にも携わる。