ビジネス

2020.11.28

トヨタを抜いたテスラ 100年に一度の変革期に豊田章男が掲げる「理想」

連載「深層:豊田章男」


クルマを取り巻く状況は急速に変化している。たとえば、自動運転やコネクティッドカーの中核を支えるECU(電子制御ユニット)は、これまで機能別に数10個搭載されていたが、いま数個にまで減っている。つまり、「分散型」が主流だ。

ところが、テスラの最新の「モデル3」は、統合ECUすなわち「集中型」で、一か所にECUを集約し、走る、曲がる、止まるの基本はもとより、さまざまな機能を制御する。トヨタなど既存メーカーの統合ECUの導入は、数年先といわれている。

ほかにも、テスラは米中の既存工場を増強し、2021年中にEVの年間生産台数100万台超えを視野に入れている。また、車載電池の自社生産にも乗り出している。

こうした攻めの決断も、トヨタがテスラに時価総額で抜かれた要因といえる。

テスラ CEO イーロン・マスク
テスラ CEOのイーロン・マスクの攻めの経営手腕に、世界が関心を寄せている (Getty Images)

トヨタからソフトウェア部門を切り分けた「決断」 


トヨタとテスラとでは、圧倒的に経営スピードが違う。37万人を抱えるトヨタの組織は、重くて遅い。技術者は、数々のしがらみを抱えている。加えて、EVによって大幅な部品点数の減少が危惧され、サプライチェーンへの影響は小さくない。わかっていても、スピード感をもって改革を進められない。宿命といっていい。

その点、テスラは身軽だ。従業員は増加しているが、それでも6万5000人程度といわれている。ましてやCEOのイーロン・マスクは、カリスマ経営者だ。ご存じのように、マスクはロケット、宇宙船の開発、打ち上げを業務とするスペースXのCEOでもある。マスクの一言で、すべてが素早く動く。経営スピードにおいて、トヨタは太刀打ちできない。

ソフトウェアの重要性が、これまでにないスピードで高まる中で、章男は一大決心をした。トヨタを本体の“ハードのトヨタ”と“ソフトのトヨタ”の二つに分割し、従来のモノづくりと、ソフトウェアの先行開発部門を分けたのだ。

前号でも触れたように、「TRI‐AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント)」を持ち株会社の「ウーブン・プラネット・ホールディングス」と事業会社の「ウーブン・コア」「ウーブン・アルファ」の3社体制に移行するというのが、それだ。

新たに生まれる3社には、あえてトヨタの名称がつけられていない。そこに、旧来のトヨタではソフト開発はムリとの章男の判断が働いているといっていい。

それは、トヨタの歴史に残る決断といっていいだろう。“グレート・リセット”である。
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文=片山修

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