インパネに表れるテスラの思想
一方、グーグルでは、「70対20対10」という社員の努力の比率が、社内に打ち出されています。70%は日常業務に、20%は継続的な改革に、そして10%が自社の(創造的)破壊に対する仕事に当てようということです。
企業としては異色でもある、最後の10%の例ですが、GoogleX(現在の「X」)や自動運転、気球によるインターネット網構築などの新たな分野への挑戦が挙げられます。
グーグルが多くの企業と異なるのは、このように日常業務と継続改革と自社の破壊を全ての社員に期待し、破壊が特別なものでなく、常にあるべきものだと示している点です。組織のバックボーンとして、デジタル革新に挑み続ける企業文化が、重要であることがわかっているからです。
また、前出の松岡氏は、米国の自動車会社テスラについても、「従来型の自動車会社と異なり、ソフトウエアやインターネットなどデジタルドリブンで車をつくっているのがテスラであり、インストルメント・パネル(インパネ)などにその思想が如実に表れている」と言います。
トヨタやメルセデスなどの車には操作ボタンがたくさんあり、その下にご丁寧なことに「オーディオ」などと、その用途まで記されています。
そのため、ボタンの用途や使い勝手を変更しようとしたり、あるいは何か問題があったりした際には、工場での修理や交換しなくてはなりません。また修理用のパーツを充足するためのサプライチェーンも必要となってきます。
一方、テスラの車にはボタンの代わりに、大きなインパネがあります。もし用途を変えるのなら、インターネットでアプリを更新すればよいという考え方です。
従来型のボタンでは、後で変更が難しいため、テストをたくさん行わなければなりませんが、このようにデジタル発想の企業では、全く違うアプローチがとれるのです。
また、松岡氏は「デジタルの村で育ってきた僕たちが、そうでない会社さんと話をするときに感じるいちばんの差は、ソフトウエアとかインターネット、デジタル、そういうものをわざわざ言語化しなくてもわかっているかどうかという違いです」と語ります。
日本のDX議論では、デジタル化すればいいんでしょう、どこかの誰かが技術で何とかする、といった文脈での発言がしばしば聞かれます。そうではなくて、「ソフトウエアやインターネットといった技術に対しての理解が会社の全員に浸透し、それに合わせて、働き方や業務プロセスなど、様々なもののレベルを上げていかないと、本質的なDXの実現は難しい」と松岡氏は指摘します。
このように、プロダクトはもちろん、事業そして企業そのもののあり方が、「デジタルドリブン」に変わるか否かが、DXによる成果につながることは間違いないでしょう。ただのお題目としてのデジタルドリブンではなく、頭だけではなく腹の底からのデジタルドリブンに舵を切れるかが、DX戦線での勝負を分けることになるはずです。
連載:ドクター本荘の「垣根を越える力」
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