人工知能政府の反乱


こうした、人類全体に脅威をもたらす支離滅裂と呼ぶべき政治が現実に存在することを考えるならば、そして、その政治がさらに4年続くことを民意が支持する可能性があることを考えるならば、筆者ならずとも、政治もまた、大局的かつ長期的な視点で冷静な判断を行える人工知能に任せるべきではないかとの思いが、心に浮かぶのではないか。

そのことを考えるとき、冒頭のSF映画『アイ、ロボット』における象徴的な場面を思い起こす。

それは、最高度の判断能力を誇る人工知能ヴィキが、「ロボット三原則」があるにもかかわらず、なぜ、ロボット達に命令し、反乱を起こし、人類を彼らの管理下に置こうとしたのかを語る場面である。

人工知能ヴィキは、その理由を次のように語る。

「人類を見ていると、愚かにも、自分たち自身を傷つけ、自分たちの幸福を損ねることを行っている。だから私は、ロボット三原則『ロボットは、危険を看過して、人間に危害を及ぼしてはならない』に基づき、人類を守るために、人類を我々の管理下に置くことが必要であると判断したのだ」

この人工知能の反乱による新たな政府という物語は、単なる娯楽SFではない。それは、我々人類の現状に対する、痛烈な皮肉と警鐘であろう。

しかし、現実には、政府の役割を賢明に代替できる人工知能は、まだ存在していない。また、存在するとしても、人類の未来を、その管理に任せるべきか否かは、深い熟慮が求められるテーマであろう。

されば、この現実の前で、やはり我々に問われるのは、賢明な政治家を選ぶことのできる、我々自身の賢明さに他ならない。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)Global Agenda Council元メンバー。全国6100名の経営者やリーダーが集う田坂塾・塾長。著書は『運気を磨く』など90冊余。tasaka@hiroshitasaka.jp

文=田坂広志

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