その反省を踏まえ、リスクファイナンスの枠組みとして、WHOの危機対応活動のためのWHO危機対応基金(CFE)、被災国支援の危機対応活動のための世銀パンデミック緊急融資制度(PEF)が、各々2015年と2016年に創設された(1)。
CFEは、感染症危機等に対するWHO自体の危機管理活動への使用を目的とし、2018年のコンゴ民主共和国のエボラ出血熱の封じ込めや、2020年の新型コロナウイルス感染症への対応などに使用されており、その4分の1は日本の拠出によって賄われていた。
一方、PEFは、世銀グループの国際開発協会(IDA)の対象国が被災した際に、被災国に対して拠出される大型の融資制度である。PEFには、早期のフェーズで資金拠出を行う現金枠(7000万米ドル相当)と、より感染拡大が深刻化したフェーズで資金拠出が行われる保険・債券枠(最大4億2500万米ドル相当)が存在する(2)。
各々の資金確保手段は、現金枠は信託基金(Trust Fund)、保険・債券枠はパンデミック保険(再保険の一種)とパンデミック債券(大災害債券の一種)である。後者の保険・債券枠の仕組みを成立させるために初めに支払うプレミアムの3分の1も、日本の拠出によって賄われている。
これらの国際社会の財政サージキャパシティ(緊急対応能力)は、新型コロナウイルス感染症においては効果的に機能した。比較的早期のフェーズで支出されるCFEとPEFの現金枠からの支出はもちろんのこと、保険及び債券を償還して各国に支出するためのトリガーとして「コロナウイルスによるパンデミック」を規定していたPEF保険・債券枠も、2020年4月27日、64カ国に対し約2億米ドルの支出を決定し、市場から資金を動員することができた(3)。
準備不足のリスクファイナンス
翻って国内では、感染症危機対応に対し、機動的かつ計画された支出可能な財政インフラは存在しない。
しかし、日本は、上記のCFEとPEF創設時から資金的にも貢献してきた主要国であり、国際社会におけるこれらの運用経験を活かし、国内で発生する感染症危機に対して同様の枠組みを導入することも可能なのではないだろうか。
また、自然災害大国であるゆえに、防災対策の一環として、自然災害が発生した際の迅速かつ効果的な復旧や復興を可能とする財政的仕組みである「災害リスクファイナンス」の整備についても、内政的にも外交的にも知見を蓄えてきている(4)。