ビジネス

2020.11.20

バレリーナ、テック起業家になる。在宅フィットネス「ミラー」が映す未来

「ミラー」の創業者、ブリン・パットナム(Getty Images)


フィットネスと華やかな世界、そしてテクノロジーの融合は、偶然にもパットナムにとって完璧な組み合わせだった。消費者に直接販売を行う(D2C)スタートアップが真っ先にやることといえば、フェイスブックやインスタグラムで対象顧客層向けに広告を配信し自社のファンをつくることだが、代わりにパットナムはインフルエンサーと契約を結んで街角に広告を出した。

「私たちが手がけるのは単なる製品ではなく、新しい概念。それは最初のころから意識していました。このブランドが、より一層映える場所で売り込んでいく必要があると」

1982年にジェーン・フォンダが初のエクササイズビデオを発売して以来、自宅でのフィットネスとジムでのフィットネスの流行が交互にやってきては、せめぎ合う状態が続いていた。今回の在宅フィットネスブームでは、テクノロジーの進歩により、個人に特化したメニューや、その人のトレーニング成果の追跡手段を提供できるようになった。

ベンチャーキャピタリストのジェド・カッツ(ペロトンに私財を投じたが、ミラーには投資していない)は言う。

「この流れは定着するでしょう。一時的なブームでは終わらないと思います。中毒性があって便利で、サービス内容もかなりよくなっていますから」

目指すのは、白雪姫の「魔法の鏡」


5月には、世界に700店舗を展開する「ゴールドジム」の運営会社が、連邦破産法11条の適応を申請して経営破綻した。

株式公開企業であるタウンスポーツの場合、企業評価額はわずか1200万ドル。現在2億ドル近い負債を抱えており、支払い期限が今年11月に迫る。全米に展開するスポーツジムチェーン「24アワーフィットネス」も6月、破産法の適用を申請した。
 
パットナムには不都合なことだが、同じように在宅オンラインエクササイズを展開する会社はほかにもある。しかし、パットナムにはトップの座を守るための策がある。それは、ミラーを自宅の「第三のスクリーン」にすること。「ミラーはiPhoneの後継者」と豪語する彼女の表情は真剣そのものだ。
 
トレーニングプログラムの次は、理学療法やリハビリ訓練への進出を考えている。将来的には、遠隔医療や各種治療、さまざまな対話型アプリケーションにも活用できると見る。白雪姫に出てくる女王の鏡のように、聞けばすぐに魔法のように答えてくれるというわけだ。
 
実際、彼女のもとには、さまざまな業界から提携のオファーが殺到している。「急成長中で、伸びしろがまだまだある会社にいても、舞い上がることなく申し出を断り続けること。起業以来そこに一番苦労していますが、同時に、一番大事なことを学んでもいるのです」


ブリン・パットナム◎1983年、ニューヨーク生まれ。ハーバード大学卒。バレリーナとして活躍後、26歳でブティックスタジオを開業。妊娠中に鏡型のデバイスを発案し、2018年にサービスを開始する。現在、ミラーCEO。

文=エイミー・フェルドマン 写真=ジャメル・トッピン

この記事は 「Forbes JAPAN Forbes JAPAN 10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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