「私の周りでは、この1年で『Vulnerability(弱さ・脆さ)』という言葉を「ありのままの自分」というポジティブな意味合いで使う人々が急増しました。
弱さや欠陥も、リアルな人間の一部。
今のように不確定な時代には、他者の脆弱さを受け止め、自分自身もVulnerabilityをさらけ出さないと、真の人間関係を築くことができないということに多くの人々が気付き始めたのでしょうか。
こういう時期にどのような行動を取るかによって、良いところだけを切り取って見せようとするうわべだけの人間なのか、素の心の中を見せられる人間なのかが見事に見破られてしまうのでしょうね」
真の人間関係を築くには、自分の素の部分もさらけ出してみること。そのことに気付いた人から変化が始まっている。
休演期間は、ブロードウェイがさらに飛躍するための大切な期間だと由水さんは言う。
コロナ後のブロードウェイはどうなる?
衣装姿の由水南さん
最後に、ブロードウェイが今後向き合わなければならない課題について尋ねてみると、由水さんは、ブロードウェイが非難されつづけてきた「人種的な不公正さ」を挙げた。
業界内でトップに上り詰めている人は、ほとんどが白人だ。由水さん自身も、アジア人はアジア人役にしかキャスティングされないという見えないけれど厚い壁と戦ってきた1人だ。
今回のコロナ禍によって、こうした業界内の構造的差別が一層浮かび上がったことで、これまでなかった有色人種を積極的に斡旋するサポート組織が誕生したという。
「これまで忙しく駆け抜けてきて、ブロードウェイが本格的に取り組めなかったことが実はたくさんありました。でも、長期の休演が決定したことで、それらの課題にじっくり取り組む時期がついに訪れたのだと思います。
この休演期間は、ブロードウェイが今後さらに飛躍するために大切な期間だと捉えています」
今回のインタビューでは、10年連続14作品の舞台に立ちつづけてきた由水南さんに、舞台に関わる人々の現在についてレポートしてもらった。
ブロードウェイの劇場は閉まっているけれど、そこに生きる人たちのタフな精神力と、ピンチをチャンスに変えていく行動力に心動かされた。
前代未聞のコロナショックも力に変えて、ブロードウェイが抱える問題解決にじっくり取り組む。再び幕が開いたとき、その魅力は何倍にもなって私たちを楽しませてくれるに違いない。
由水南(ゆうすい・みなみ)◎ブロードウェイ俳優。YUプロジェクト主宰(セミナー・サロン運営)。2002年に演劇を学ぶために渡米。07年に一旦帰国し劇団四季に3年間在団し、「ウィキッド」「美女と野獣」「鹿鳴館」に出演。09年に再び渡米し、15年に渡辺謙主演の『王様と私』でブロードウェイデビューを果たし、『ミス・サイゴン』『マイフェアレディ』などで活躍。オンラインサロン『YUサロン』やYouTubeチャンネルなど、独自のプログラムを通して、前向きに行動しチャンスを掴むためのツールを提供している。
変わるブロードウェイ
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#2 「生の感動」を届けたい。NYの振付家が始めた野外パフォーマンス
#3 ブロードウェイを忘れないで。舞台人がファンのために考えた「特別なこと」
#4 長期休演で課題が浮き彫りに。ブロードウェイが業界改革に乗り出した