「生の感動」を届けたい。NYの振付家が始めた野外パフォーマンス

振付家のJena Van Elslanderさんは、タイムズスクエアで仲間と踊り始めた(本人提供)

来年5月まで劇場公演の中止が決まっているブロードウェイ。長期の公演休止のなかで、俳優や舞台関係者たちは、いまどんなことを考え、どんな毎日を過ごしているのか。

ブロードウェイで活躍する日本人俳優の由水南(ゆうすい・みなみ)さんから現地の様子を聞いたレポートの続編#2をお届けする(#1はこちら)。コロナ禍のなかでも、俳優ならではの強みを生かして、この困難な状況を乗り越えようとしている舞台人たち。この状況をチャンスに変えようと奮闘している由水さんの仲間たちの「今」をエピソードで紹介していこう。

アーケードにあった鏡を見て、舞台が恋しくなった


由水さんが通っていた演劇学校の同期である振付家のJena Van Elslander(ジェナ)。彼女は医学部卒でありながら、ブロードウェイの振付家へと転身した稀有な存在だ。

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、厳しい医療現場で戦っている医療従事者の力になりたいと思った彼女は、タイムズスクエアにあるリハーサルスタジオに仲間たちを集めて、医療従事者のための防護服を作り始めることにした。


その防護服づくりに向かう途中で必ず通るマリオットマーキーホテル入口のアーケードには、壁一面に鏡がある。それを見たジェナは、ブロードウェイの舞台が恋しくなって、この鏡の前で振り付けと稽古を行い、タイムズスクエアで撮影をしてSNSにアップすることにした。

すると、その動画を見た俳優たちが「一緒に踊りたい!」と次々にマリオットマーキーホテルに集まり始めたのだ。

ジェナは集まったダンサーたちに、週末ごとに振り付けを教えて、その様子を撮影した動画を10週間連続で配信し始めた。するとそれがSNSで拡散されて話題になり、ダンサーだけではなく観客も集まるようになった。

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振り付けと稽古に使っていたマリオットホテルのアーケード

ところが、そんなある日、このスペースをインドアサイクリング会社(CYC)が買い取ったことで、アーケードが使えなくなる事件が起きた。しかもこの時期は、「ブラック・ライブズ・マター」の抗議デモが街中で連日行われており、他の場所でやろうと思っても、そう簡単に代わりを見つけることができなかったのだ。
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聞き手・文=安積陽子 写真提供=Jena Van Elslander 編集=松崎美和子

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