高度な産業用ロボットから始まった30年
「初代『ルンバ』を見た瞬間、コリン・アングル(アイロボット創業者兼CEO)が描く夢の一部を垣間見た気がしました」
そう語った松永エリック・匡史は、プロミュージシャンを経て、クリエイティブ思考を基盤にした超右脳系理論を構築し、数多の企業に未来を示唆した、DXの専門家としても名を馳せる異色のコンサルタントだ。昨年からは青山学院大学地球社会共生学部教授という別の顔も加わった。
そんな彼は初代からの「ルンバ」ユーザーで、特別なエモーションを感じたからこそ次々と生み出される新しい掃除体験を手に入れ続けているのだという。
「人や掃除機が行う清掃作業をロボットがリプレイスするということだけであれば、あまり興味を感じたりはしなかったでしょう。そうではなく『ルンバ』が生み出す既成概念にとらわれない新しい生活様式の予感が心を捉えたのです。これからどんな生活ができるようになるのか、世界が変わり始める予感にワクワクしました」
DXの専門家である松永が、自身のユーザー体験も踏まえ、アイロボットの取り組みについてその考えを語ってくれた
アイロボットは、生粋のロボットエンジニアであるCEOコリン・アングルを筆頭に、マサチューセッツ工科大学(MIT)のロボット学者たちが“生活に役立つ実用ロボットの開発をする”という理念を旗印に集まり、1990年に創業された。
創業時は宇宙開発のための火星探査用ロボットや、命を救う紛争地域の地雷探知ロボットなど、産業用ロボットを数多く手がけた。そうした強力な技術力を家庭用に応用して開発されたのが、2002年登場のロボット掃除機「ルンバ」だ。この製品のヒットにより、アイロボットは家庭で使うロボット掃除機というまったく新しいジャンルの市場を創出したのだ。
その企業活動の根本にあるのが、コリンが言うところの、自分と仲間の力を掛け合わせて最大限に成果を出していく共創力/Co-Creativityである。顧客だけでなく社員も含めたあらゆるステークホルダーとともに未来をつくり出すという思想は、「ルンバ」「ブラーバ」という家庭用ロボットの開発においても変わらない。
「実際に『ルンバ i7+』と『ブラーバ ジェット m6』を使ってみると、『ルンバ』はゴミをパワフルに吸い取り、『ブラーバ』は気が付かなかった床の汚れまで満遍なくキレイに拭き掃除をしてくれて、高い技術力によって実現された清掃力だと感心しました。『ルンバ』のゴミ捨ての自動化は、ユーザーとしては待望の変化です。今後ソフトウェアアップデートで機能が追加されるというアナウンスも、よりデジタルに適した動きで、現代的ですね」
個人の暮らしのハブとなる「ルンバ」
部屋の環境を学習して記憶し、最適なパターンで清掃。左がダスト容器約30杯分のゴミも収納可能な「ルンバ i7+」¥12万9,880。右が「ルンバ」との連携も可能な「ブラーバ ジェット m6」¥6万9,880。
今回紹介している「ルンバ」「ブラーバ」は、カメラやセンサーで家の中の環境を学習する。同時にスマートフォンの専用アプリ「iRobot HOME」アプリを通じてクラウドに接続、家の環境や掃除履歴を記憶することも可能になった。
「『ルンバ』は5G時代に突入しつつあるネットワーク環境を手に入れたことになります。家の中の間取り、清掃時間帯など、ライフスタイルの情報をクラウドに収集できることで掃除体験がアップデートしてどんどん暮らしが快適になる、その応用範囲は無限大です」
先進の機能としては、清掃部分/非清掃部分の把握が可能になり、Alexaデバイスなどのスマートスピーカーを通じて、特定の部屋やエリア、どの時間帯に掃除するかを指定できるようになった。暮らしに合わせてより自分好みの設定が可能だ。
さらに、アイロボットは、AI搭載の専用アプリにより、ユーザーのスケジュールに合わせていつどの場所を清掃すべきかをサジェッションできるようにした。
ゆくゆくは花粉の季節が来れば、「ルンバ」は『もっと頻繁に掃除をしましょう』と提案するようになるという。その応答に反応し、覚え込むことで、より最適な解を得るために再質問をする。その一連のシークエンスで起こるのは、ユーザーの暮らしへの最適化だ。
「カスタマイズされた『ルンバ』は他の人にとっては使いにくいものになっていくでしょう。他人仕様のPCやスマートフォンが使いにくいように、よりパーソナルに進化していくなら当然です」
アイロボットはミッションに「Empower people to do more」を掲げている。多様な人々のそれぞれの暮らしに対してのパーソナルなempowerである。
清掃時間やエリアの設定、外出先からの掃除も可能にした「iRobot HOME」アプリ。
スマートホームは優しい未来をつくるか
「家の地図をもつ『ルンバ』がハブとなり、洗濯機やレンジなどの家庭内のすべてのIoT家電をオーケストレーションする。主人に代わる家庭マネージャーのような存在になっている光景が想像できました」
松永の夢想する未来はそう遠い話ではない。各家庭に最適化された「ルンバ」は「ブラーバ」との連携はもとより、そのほかの機器などとの連携も視野に開発が続けられている。家全体が連携して人の暮らしをempowerする。それがアイロボットの提唱する「スマートホーム構想」だ。
「住人の行動を把握して、気がつかない間に掃除をして、疲れて帰宅したときにはキレイな床がお出迎えしてくれる。そんな進化した『ルンバ』がある社会は、きっと人とテクノロジーが共創する優しい世界でしょう。その間には双方向の関係性があり、テクノロジーだけでなく人も変化していく世界です。
古来、日本にはモノを丁寧に使い続け、愛着を育む文化があります。自分のことをわかってくれている存在、それが『ルンバ』『ブラーバ』であったとしても、愛おしく感じずにはいられないはずです。
松永エリック・匡史(まつながエリック・まさのぶ)◎青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科 修士課程修了。バークリー音楽院出身のアーティストとしての感性を生かしたコンサルティングで、アクセンチュア、野村総合研究所、日本IBMを経て、デロイトトーマツ コンサルティング メディアセクターAPAC統括パートナー・執行役員、PwCコンサルティング デジタルサービス日本統括パートナーとして、デジタル事業の立ち上げ、エクスペリエンスセンターをコンセプトデザインからリード。2018年よりアバナード(株)デジタル最高顧問。2019年4月より青山学院大学 地球社会共生学部 教授。2020年より事業構想大学院大学 客員教授。
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