さて、気になる結果は……。
今回出品された6本の酒のEstimate Price(見積価格)は3万2000~5万香港ドル(43万3977~67万8089円)とされていたが、落札価格は5万6250~6万2500香港ドル(75万9375~84万3750円)と、予想を大きく上回るものとなった。桜井一宏社長は語る。
「私たちが最高と信じるものが世界で高い評価を受けたことをうれしく思っています。世界の富裕層マーケットに向けても、ワインとは違う世界観を持つ日本酒という新しい価値を示すことができました」
オークションの結果に安堵する桜井博志会長(左)と桜井一宏社長(右)
日本酒とワインは同じ発酵酒として比較されることが多いが、大きな違いのひとつとしてその価格が挙げられるだろう。ワインのボトル1本(750ml)と日本酒の四合瓶(720ml)は瓶の姿や容量も似通っているが、価格においてはワインのほうが日本酒よりはるかに高価であり、そのレンジも広いことはスーパーマーケットの酒売り場に立ってみれば一目瞭然。
この点について桜井博志会長は、「常々日本酒市場に高価格品がないデメリットについて考えてきました。ただ、価格というものは作り手の都合でつけられるものではない」として、今回の落札価格が日本酒のバリューアップにつながることへの期待をしめした。
今回のオークショニアを担当したアダム・ビルベイ氏によれば、ビッドはアジアだけではなくヨーロッパからも入り、最終的に落札したのは、中国、香港、日本のカスタマーだったという。
「(初めて日本酒を扱うのは)我々としてもチャレンジだったが、ビッドのペースも大変早く、素晴らしいスタートを切れた。ただ、今後もほかの日本酒を扱うのかと聞かれたらそれは未定。今回は獺祭(のクオリティ)があってこそ成立したオークションだったと思う」とコメントを寄せてくれた。
獺祭に84万3750円の値がついた日、それは日本酒に世界基準で圧倒的な品質という付加価値が生まれた日でもあった。そこに追随し、またそれを超えていくのはどんな酒だろうか?
旭酒造は2019年の西日本豪雨災害により約15億円の損害を被り、また今年の新型コロナウイルスにより3~5月の売り上げは前年比50%を割るなど大きなダメージを受けたが、10月期の売り上げは前年比プラスになるなど復調傾向にある。
そこへもたらされたこのニュースの明るさに勇気づけられたのは私だけではないだろう。今回の出品酒には「Dassai Beyond The Beyond」という英語名がつけられているが、「その先の、さらに先へ」と日本酒の品質と価値が向上していくことに期待したい。