ヘルスケアと経済活性化は両立可能か これから考えるべき「健康長寿」戦略

健康長寿について考えるべき時代だ(Photo by Unsplash)

20世紀を通じ、多くの取り組みが長寿に貢献してきた。そこでは、公衆衛生政策と力強いヘルスケアシステムの構築が焦点であり、医療の専門家、政策当局、非営利団体が主たる役割を果たしてきた。

この偉大な取り組みが、まずは先進国において、そして新興国において平均寿命を改善してきた。21世紀中には、世界のほとんどの国が超高齢化社会を経験する。これは素晴らしい成果である。

健康寿命と平均寿命


長寿が達成されつつある現在、次の課題である健康寿命に焦点が当たっている。先進国においてさえ、平均寿命と健康寿命の間には10年間の差が存在する(下図参照)。我々が追求すべき健康とは物理的な状態だけでなく、主観的な満足度、幸福度を含む概念である。我々は、医学的にも、社会的にも、経済的にも、より良いQOL(生活の質)を達成するため、総合的で人間中心型のアプローチを追求するべきであり、人の一生涯に関するあらゆる制度や課題を再検討し、新しい課題とアクションを見つけるべきである。

健康長寿
先進国、開発途上国ともに、平均寿命と健康寿命の間には10年間の差がある(World Health Statistics 2015)

長寿の目標が平均寿命の延伸から健康寿命の延伸に移るに従い、総合的な分析とさまざまなステークホルダーによる幅広いアクションが必要となる。そのためには、例えば、新型コロナウイルス感染拡大への対応を考えてみればわかるように、実務家、アカデミア、産業界、政府を問わず、一つの分野や領域の関係者だけでは効果的な解決策を見つけることはできない。

個人のQOL向上は、経済の安定につながる


ヘルスケアの専門家や普通の人々は、長寿を、ミクロの観点でとらえ、個人のQOLを向上させるものとして歓迎し、前向きな印象を持つ傾向にある。一方、エコノミストや産業人の中には、長寿を、マクロの観点でとらえ、経済的な力を弱め、社会負担を拡大させるとして、悲観的な印象を持つ者もいるかもしれない。

しかし、ミクロレベルでの個人のQOLの向上と、マクロレベルでの経済社会活動の活性化を共に実現する策を見つけることは可能であり、そうすべきである。例えば、柔軟で包摂的な環境が揃えば、高齢者でも、年齢や健康状態にかかわらず、働き、生産し、消費し、社会に貢献し続けることが可能であるし、高齢者が積極的に社会参加をすることは、個人の健康状態を改善させるだけでなく、国家や地域の経済力や安定性を増大させることにつながる。
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文=Kazumi Nishikawa, Director, Information Technology Industry Division, Ministry of Economy, Trade and Industry of Japan

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