ヘルスケアと経済活性化は両立可能か これから考えるべき「健康長寿」戦略

健康長寿について考えるべき時代だ(Photo by Unsplash)


QOLや幸福度の向上に必要な疾病の予防や日常生活支援の中には、公的補助を受けたサービスではなく、通常の生活消費サービスの方が効率的で有効に機能する場合がある。

新型コロナウイルス感染拡大への対応でも、過度な隔離政策が経済社会活動を停滞させるだけでなく、社会参加の低下による高齢者のQOLの悪化につながる可能性があることに注意する必要がある。社会負担の少ないスマートなヘルスケア政策を見出すためには、ヘルスケアの専門家とエコノミストの協働が有効である。

P4医療の発達に欠かせないもの


超高齢社会においては、P4医療=予測(Predictive)、予防(Preventive)、個別化(Personalized)、参加型(Participatory)の医療が一層重要となる。

P4医療では、地域コミュニティ、学校、職場、高齢者施設を含むあらゆる場所において、個人を継続的にモニタリングし、データを分析し、適切なタイミングで介入できるようにすることが必要となる。そのためには、病院の中の医療機器というよりも、センサー、ウェアラブルデバイス、スマートフォンのようなデジタルツールが、より大きな役割を果たすことになる。

製薬会社や医療機器メーカーだけでなく、小売サービス、交通サービス、エンターテイメントのような生活サービスもヘルスケア産業に加わることになる。新たな参入者はヘルスケア事業を実施するために基本的な規範、倫理、ルールを身に着ける必要があることはもちろんである。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、デジタルを活用した遠隔、非接触、非対面のヘルスケアサービスや新たな生活サービスが出てきているが、こうしたサービスはP4医療を実現するための信頼できるツールになっていく可能性がある。

現在のシステムの脆弱性


健康長寿に備えるため、医療物資のサプライチェーンやロジスクティクスの強靭化を図ることが必要である。しかし、新型コロナウイルス感染拡大への対応は、現在のシステムが脆弱であることを明らかにした。

多くの国で、マスクや医療用手袋、人工呼吸器、検査キット、様々な医療物資の不足を経験し、製薬会社や医療機器メーカーだけでは、世界レベルでの医療物資需要の爆発に応えられず、国際調達を管理できなかった。その一方、自動車やエレクトロニクスといった非医療産業が、クリーンルーム、エンジニア、地域やグローバルな商業ネットワークを提供し、医療物資の緊急増産を助けている事例も見られる。

医療関連産業と非医療関連産業のさらなる協働により、サプライチェーンとロジスクティクスの強靭化を図る必要がある。興味深いことに、資本市場におけるステークホルダーキャピタリズム、ESGやSDGsといったトレンドが、こうした協働を活性化させている。

健康寿命
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文=Kazumi Nishikawa, Director, Information Technology Industry Division, Ministry of Economy, Trade and Industry of Japan

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