ところが、制度開始からまもなく50年が経過している現在はどうか。数だけみると、逆に住宅が余っている状況へと変わった。空き家を解体して更地にすると税負担が増えるこの制度は、老朽化した空き家が解体されないという問題を今日に残すこととなった。
神戸市の試算によると、200平方メートルの土地であれば、年間2万8000円であった土地にかかる税額が、家屋を撤去すると、3.6倍の10万円に増える。
そこで国は、2015年に地方税法を改正し、家屋を解体しなくても、前述の2014年の特措法上の「勧告」を受ければ、固定資産税の「住宅用地特例」から除外することにした。
さらに、老朽や損傷で、もはや住宅といえないものだけでなく、その一歩手前の「必要な管理を怠っている」ものまでも対象になると、各自治体に通知した。誰も住まず、管理されなくなった住宅は、特例をつくった趣旨に合わないからだ。
天井が抜け壁が落ち、原型を留めない空き家
しかしながら、ほぼ全ての自治体が、国の方針どおり対応することに、二の足を踏んだ。なぜなら、必要な管理が行われているのかは、現地調査をして、これをどうするのかを所有者と個別に話をしなければならない。その手間とコストもばかにならないからだ。
また納めるべき税額が増えたとしても、管理すらできていない所有者に税金を納めてもらえるのか疑問だ。さらに、所有者に不利益をもたらすので、場合によっては、自治体側が訴訟リスクすら抱える。
そんななかで、神戸市は昨年、この特例解除を積極的に進める方針を決めた。これを提案した固定資産税課長の岡田茂樹は、「はっきり言って、税のことだけを考えるとメリットがない。だが、空き家対策に特効薬がない以上、こうして手を打つべきだと思った」と話す。政令指定都市では、神戸市と京都市だけがこれを推進している。
昨年度は、129件の調査を行い、19件の特例を解除した。今年度は645件の調査を進めており、約100件が対象になる見込みだ。
少子高齢化と人口減少のなかで、地方から東京への人口集中が続いた。さらに地域での近所付き合いが疎遠になり、核家族化も進んだ。こうして生じた「空き家」問題は日本の縮図だ。官民の力を結集して、さまざまな手段を組み合わせることで、将来に問題を先送りしない取組みが、いま求められている。
連載:地方発イノベーションの秘訣
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