研究チームは、学術誌Nature Machine Intelligenceに発表した論文の中で、生きているようなインテリジェント・ロボットを開発するためには、材料工学や機械工学、コンピュータ・サイエンス、生物学、化学を学生や研究者に教えることが必要だと述べている。
インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームは、これらの分野を組み合わせた「フィジカルなAI」こそが、外見も動作も人間にそっくりなインテリジェント・ロボットを開発する上でのミッシングリンクになっていたと指摘している。
彼らは、インテリジェント・ロボットのボディ部分を開発する上で、研究者が人工知能や計算知能の進化に取り残されていると指摘し、フィジカルなAIを学習・実践することでこの課題を克服できるとしている。
「ロボットの“脳”の開発に比べて、“ボディ”の開発は大幅に遅れている。デジタルAIはこの数十年で格段に進化したが、フィジカルなAIの研究はそれほど進んでいない」と、インペリアル・カレッジ・ロンドンとスイス連邦材料試験研究所のMirko Kovac教授は述べている。
遠隔作業のためのフィジカルなAI
インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームがフィジカルなAIを提唱した背景には、パンデミックにより、日常業務を遠隔から自動的に行いたいという社会的ニーズが高まっていることが挙げられる。
「今日のロボットは、日常業務をこなすために必要である、モノを扱ったり、複雑で予測困難な状況で動作するといった能力を備えていない。また、人間や自然環境と接する上でまだ十分に安全とは言えない」と研究チームは述べている。
研究チームは、ロボットのボディを開発する上では、新たな素材や構造、機能的な形態、インテリジェント・コントロールやセンサーシステムの開発がとりわけ重要だと指摘した。これらの成果を、既存のコンピュータベースのAI研究と組み合わせることで、より自然に周辺環境に対応できる自律ロボットの実現が可能になるという。
生きているような自律ロボットが実現すれば、人間にとって危険であったり、面倒な業務を支援できるようになる。例えば、世界的に不足している医療従事者や介護従事者の支援などが想定される。
フィジカルなAIの定義
ボディと脳が連携したロボットを実現するために、研究チームは体系的な教育アプローチを導入して学生や研究者を教育する必要があると指摘している。研究チームは、このアプローチの中核を成すのがフィジカルなAIであるとし、その定義を「インテリジェントな生命体が行う業務を行うことが可能なフィジカルなシステムを開発するための理論と実践」としている。
「AIの概念は、コンピュータやスマートフォン、データ集約型コンピューティングに限定されることが多い。我々はAIをより幅広く定義し、形態や学習システム、埋め込みセンサー、流体論理、統合アクチュエーションを共同開発することを提唱している」とMirko Kovacは述べている。
フィジカルなAIと生きているようなロボットを開発するためには、異なる分野の研究者が協力する必要がある。インペリアル・カレッジ・ロンドンとスイス連邦材料試験研究所は、「Materials and Technology Centre of Robotics」を共同設立し、スイス連邦材料試験研究所が持つ材料工学の専門技術とインペリアル・カレッジ・ロンドンの「Aerial Robotics Laboratory」を組み合わせた研究を行っている。