ティムは現役の俳優でありながら、コロナ禍で劇場が閉鎖される前から、22名のスタッフを雇ってブロードウェイのツアーを行う会社を経営してきた。
このツアーは「Broadway Up Close(BUC)」という名称で、関係者やスタッフなどと話ができたり、運が良ければ、公演後の楽屋へ行って出演者に直接あいさつができたりすることもあるそうで、ファンにとっては非常に贅沢で幸せな体験が売りだ。
現役の俳優でありながら、コロナ前からブロードウェイのツアーを行う会社を経営してきた
2014年には、世界最大の閲覧数を持つ旅行口コミサイト「Trip Advisor」に掲載されているニューヨークツアーの中で、ティムのツアーが6カ月連続で1位を獲得。今年の2月には最高セールスも達成した。
コロナ禍前のBroadway Up Close(BUC)ツアーの受付
ところがその直後に、ブロードウェイの公演休止が決定。予約が入っていたツアーも全額返金となってしまい、記録的なセールスも白紙になってしまった。
俳優としても経営者としても先行きが見えなくなり落ち込むティム。
そんな彼の元へ、友人から1羽の折り鶴が入った手紙が送られてきた。その手紙を通じて千羽鶴の存在を知り、心を動かされたティムは、すぐに新たな行動に出る。世界中のブロードウェイファンに、願いを書いた折り鶴を送ってくれるように依頼したのだ。
ティムの望みにファンたちはすぐ反応した。次々と送られてくる願いの込められた折り鶴たち。ティムは手元に1000羽集まるごとに千羽鶴としてまとめ、チケット売り場に飾ることにした。
折り紙を折ることで一体感を味わうという、国境を超えた壮大な試み。ティムもまた、大好きなブロードウェイを人々の心から消さないように情熱を傾けたのである。
この折り鶴の活動の他にも、例えばコロナでツアーに参加できなかった人々にオンラインツアーの提供サービスを開始した。反響は大きく、ファンたちの心にブロードウェイがまだまだ光を放っていることが窺える。
世界に1つしかないグッズを届けるサービスも始まっている。過去に購入したチケットの半券などを事務所に送ると、そのチケット内容を木彫りにしたキーホルダーやマグネットに変えてもらえるというサービスだ。こちらも大盛況で、オンラインツアーに参加した人も大量に購入しているという。
過去に購入したチケットが木彫りのキーホルダーやマグネットに
ブロードウェイで体験した感動や自分にしかない思い出を、身近なものとして感じ続けられるように。そんな願いを込めてつくられたグッズが、今日もまたファンの元へと届けられていく。
変わるブロードウェイ#4へ続く>
変わるブロードウェイ
#1 コロナ禍のブロードウェイ俳優たち。演劇で学んだ「選択する力」が糧に
#2 「生の感動」を届けたい。NYの振付家が始めた野外パフォーマンス
#3 ブロードウェイを忘れないで。舞台人がファンのために考えた「特別なこと」
#4 長期休演で課題が浮き彫りに。ブロードウェイが業界改革に乗り出した