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#供述弱者を知る

連載「#供述弱者を知る」

獄中鑑定の当日、名古屋から新幹線で向かった元記者の精神科医、小出将則医師(59)と臨床心理士の女性、そして私は、JR大阪駅のホームで井戸謙一弁護士(66)と合流した。大津から来ていた角雄記記者(38)とも落ち合い、和歌山に向かう特急列車くろしおに5人で乗り込んだ。

果たして、鑑定でどんな結果が出るのか。小出君はその緻密な事前リサーチから「軽度知的障害と発達障害は間違いない」と話していた。だとすれば、それは私たちの報道、弁護団の法廷戦術に新たな展開を生むだけでなく、西山美香さん(40)のこれからの人生に大きく影響する。

前回の記事:25人目の裁判官が気づいた「自然死」の可能性 鑑定書の衝撃事実

障害が判明すれば、その障害と向き合って生きることが、新たな人生の課題になるだろう。無実の罪を晴らす上では大きなプラスになっても、障害という事実を突きつけられた場合の心理的な負担が待ち受ける。24歳で逮捕された西山さんはすでに37歳。まだ会ったこともない彼女の胸中に思いを巡らせても、簡単に答えは出なかった。

利害関係なく信頼した刑事


特急列車では即席の会議ができるよう、4人掛けにできるシートを予約しておいた。

「今月中に裁判所に提出する予定の上申書です。A刑事が特別な存在になっていった経緯がよく分かります」

井戸弁護士が1枚の便箋をかばんから取り出した。手書きされていたのは、見覚えのある西山さんの字。最初の取り調べでA刑事に「アラームが鳴ったはずや」と脅された場面と、その後、言いなりになった理由が書いてあった。

「上申書 大阪高等裁判所刑事第二部御中 …(略)…写真をならべておいて、机に顔を近づけるような形に頭を押しつけてきました。こわくてたまらなかったけど…(略)…しかし、事件のことは横において私のプライバシーのことを聞いてきました。私は幼い頃から兄が優秀で比べられ自分自身にトラウマがありました。他の人は兄と比べて、私はだめ人間みたいに言ってきたのに、A刑事は『西山さんはむしろかしこい子だ、普通と同じでかわった子ではない』。心を許していこうと思ったじんぶつ(人物)でしたので何でもA刑事の言うことを聞いていました。言われるままに『Tさんをどのように殺したか』と自白してしまいました。しかし、嘘をついてしまっているので、私は自白していますがつじつまがあっていません。私が自白しているのですが、A刑事が考えて言わされているのだから、あまり覚えていません。(以下略)」

井戸弁護士は、約1カ月後に3者協議が行われることになったと明かし「その1回で終われば結論は7月に出る可能性がある」と見通しを示した。

「彼女は友達をつくるにはお金や物をあげるしかないと思っていて、子どものころは家のお金を持ち出してまで友だちをつくろうとしたそうです。だが、A刑事とは、そういった利害関係がないのに、どんどん親しくなった。初めて人間関係で信頼が生まれた相手だった、と話していました」

直近の面会で聞き取ったことを井戸弁護士が付け加えると、小出君は「前にもお話ししましたが」と前置きして話し始めた。

文=秦融

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