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KAICO 代表取締役 大和建太(左)、メドメイン 代表取締役CEO 飯塚 統(中央)、DentaLight 代表取締役CEO 藤久保元希(右)

2020年10月、「新たな日常」をテーマに開催したフクオカベンチャーマーケット(以下FVM。主催:福岡県ベンチャービジネス支援協議会)の「ニューノーマル特集」は大盛況に終わった。福岡を代表する、次世代の医療、ヘルスケアベンチャーの革新性は、想像を遥かに超えるほど先進的だった。登壇した同領域の3社を取材した。


本稿では、登壇企業のなかから、医療、ヘルスケア領域で活躍している福岡発ベンチャーを紹介する。歯科医療のあり方を根本から変えるサービスを提供する「DentaLight」、病理診断のスピードと精度を上げるシステム開発で世界から注目される「メドメイン」、奇跡の昆虫、カイコを利用し、新型コロナウイルスのワクチン開発を目指す「KAICO」。これら3社は、ニューノーマル時代、人々の価値観を大きく変えてしまう可能性をもつ。福岡の地を挑戦の場として選んだ起業家たちの本音に迫った。

DentaLight:DXで歯科業界にイノベーションを!


「口腔内の感染症である歯周病は、本人が気づかぬうちに進行し、最悪の場合、心臓疾患、脳梗塞など、命の危険を及ぼす重度の病気を引き起こすことが科学的に証明され始めています。今後、歯科医院の果たす社会的役割がさらに重要度を増していくのは間違いありません」

こう話すのは、DentaLightの代表、藤久保元希。これまでの歯周病や虫歯の予防診療、治療、メンテナンスまでの医療領域をテクノロジーの力で劇的に変えることに成功した、福岡県を代表するヒーロー起業家のひとりだ。


DentaLight 代表取締役CEO 藤久保元希

煩雑な業務(顧客管理、サブカルテの保管など)をデジタル化した歯科医院向けソフトウェア「ジニー」と、診察日のリマインド、歯のケアを促進する機能を紐づけたデジタル診察券アプリ「myDental」が連動することで、課題であった「通院の挫折」を大幅に解消した。

「歯周病、虫歯の予防に画一的な方法はなく、その人の歯の特徴によって最善の方法を選択しなければなりません。それを提案できるのは、その患者さんをよく知る歯科医です。患者さん一人ひとりに寄り添おうとする先生たちと、患者さんのオンライン上での交流を可能としたのが、「ジニー」や「myDental」です。丈夫な歯は健康を守る第一歩。これからの歯科医院は歯を治療するだけでなく、地域の人々の健康を管理する医院として生まれ変わると思っています」

ふたつのソフトウェアは、通院がさらに難しくなった今年のコロナ禍で、さらにニーズが高まっているという。

「歯科医院と患者さんの間でコミュニケーションが活発になり、有益な情報を届けることができるようになりました。

例えば、タバコをやめ、呼吸を変えるだけでも歯周病の予防につながります。また、歯の黄ばみ、歯並びの矯正など、『myDental』を通して個々の悩みをスマホひとつで歯科医に相談できる手軽さもこのアプリが受け入れられた理由のひとつだと思っています。コロナを機に日頃から歯をケアすることの大切さに気づいてくれた人たちが増えたことはポジティブに捉えています」


メドメイン:デジタル病理診断で医学の発展に貢献


「福岡県には、社会課題のソリューションを目指すスタートアップを育成し、支援する制度がすでに整っています。私は東京出身ですが、大学時代にこの地に来なければ、起業にチャレンジする道は選ばなかったかもしれません」

こう話すのは、九州大学発のヘルステックベンチャー、メドメインを牽引する飯塚統。実は、本年度のForbesアジアが称える30歳未満の未来を動かす才能「30 UNDER 30 Asia」に日本から選出された、世界が期待する若手経営者のひとりでもある。


メドメイン 代表取締役CEO 飯塚 統

「助かる命は何としてでも救いたい」、その思いが原動力となり、メドメインは革新的な医療用のシステムの開発に成功した。それが病理AI解析ソリューション、「PidPort(ピッドポート)」だ。

「医療の現場では、患者さんの組織や細胞をみて、治療方針の意思決定を担う病理医が慢性的に不足しているという世界的な課題があります。通常、病理診断の結果が出るまでには1週間から3週間、開発途上国ではさらに時間が掛かってしまう。患者さんにとって、この間の不安は相当なものであることは言うまでもありません。こうした課題を解決するためには、これまでのプレパラートを顕微鏡で観察する病理診断のアプローチ法を改善する必要があると考えました」

「PidPort」は、患者さんの細胞、組織を専用スキャナーで読み取り、デジタル化された画像データをAIがスクリーニング検査するクラウド型のソフトウェア。病理医にとっては、AIが瞬時に解析結果を提示することで日々の業務負担の軽減につながる。全国の30にも及ぶ大学医学部・病院等の施設、海外ではアメリカ、タイ、シンガポール、インドなどの医療機関とすでに共同研究を進めている。

「病理診断を迅速に行うことが大前提です。学習機能をもつAIが病理医をサポートし、地域によらず医療の水準が上がることを期待しています。また、病理診断の環境が充実していない遠隔地でも「PidPort」があれば、オンラインで病理診断を行うことも可能です」

AIに関しては国内では実証実験の段階だというが、すでに医学論文も発表され、実用化できるレベルに達しているという。

新型コロナウイルスの感染拡大により、医療従事者にかかる負担は大きくなっている。「PidPort」への期待はますます高まるばかりだ。


KAICO:奇跡の昆虫、カイコでつくるコロナワクチン


今春、九州大学と九州大学発ベンチャー「KAICO(カイコ)」が、昆虫のカイコから得たタンパク質を利用して新型コロナウイルスのワクチン開発に着手するという報道が流れたとき、多くの人が驚いたのではないだろうか。無論、夢物語ではない。

「それ以前に、私たちはカイコの体内で形成されるタンパク質を使って、動物用のコロナウイルスのワクチン開発を目指してきました。動物に効果があるのだから、人間にも応用できると仮説を立て、九州大学とともに開発プロジェクトを立ち上げたのです」


KAICO 代表取締役 大和建太

この瞬間には、同社代表の大和建太は一定の感触を得ていたようだ。九州大学は、100年もの間、カイコの生態を研究してきた歴史をもつ。こうした研究機関は世界中を探してもどこにもないだろう。だからこそ、450種類の系統のなかから、ワクチンの原液となるタンパク質を多くつくることができる品種を突き止めることができたのだ。

「中国で公開されたゲノム遺伝子情報をもとに、カイコにウイルスを仕込むと体内にSタンパク質が生成されました。このタンパク質が人間の体内に抗体をつくってくれます。カイコは高密度のところで飼育ができるので、もしワクチンが完成すれば、大量生産も可能です」

カイコは4,500年間、一度として人間に害を与えたことはないという。欧米の化学物質でつくったワクチンよりも、副作用の心配もないだろう。

「ひとつだけ懸念材料があります。私たちはすでに動物用の薬の開発には成功していますが、人間のための薬となると、乗り越えなければならないハードルが格段に高くなります。それを国や研究機関に認めてもらえるかどうかが、今後のカギになると思っています」

とはいえ、すでに「KAICO」には、福岡県という強力なパートナーがいる。バイオテクノロジーの先進企業、ユーグレナ社も共同開発に加わった。これからも「KAICO」の支援者が次々と増えていくのは容易に予測がつく。

「これまでもFVMを通じて素晴らしい出会いがありました。九州大学の研究成果を広く知っていただいたのもFVMのお蔭だと思っています」


九州大学発ベンチャーが活躍できる環境


今回、開催されたニューノーマル特集は、在宅勤務、非接触、テレワークを推進する企業に焦点を当てた企画ではない。人々の行動、意識が変化しているなかで、ベンチャーも新たな取り組みが必要になってきている。その中で存在感を高めているのが九州大学発のベンチャーだ。九州大学には、九州大学起業部があり、さまざまな分野でベンチャーが活躍している。九州大学発ベンチャー起業家にとっても新たなビジネスプランを発信する場として、FVMは貴重なイベントと言えよう。


福岡ベンチャーマーケット(FVM)
https://www.fvm-support.com/


藤久保元希◎ふじくぼ・げんき DentaLight 代表取締役CEO。鹿児島県出身。山口大学卒業。広告代理店勤務を経て、13年DentaLightを創業。⻭科医患者向けの患者管理システム「ジニー」、診察券・PHRアプリ「myDental」により、予約の効率化、紙の診察券の減少、来院の自動受付等を進める。

飯塚 統◎いいづか・おさむ メドメイン 代表取締役CEO。東京都出身。Webエンジニアとしてベンチャー企業勤務を経て、2018年、九州大学医学部在学中にメドメインを設立。 AIを活用した画像処理技術によって病理のデジタル画像の解析を行うソフトウェア「PidPort」を開発。

大和建太◎やまと・けんた KAICO 代表取締役。東京都出身。2015年九州大学大学院(MBA)修了。16年九州大学大学院経済学府特任准教授。18年KAICOを創業。九州大学と共同で、新型コロナウイルスの抗体検出キットとワクチン候補となるタンパク質の開発に成功。


Promoted by福岡ベンチャーマーケット / text by Hiroshi Shinohara / photographs by Shuji Goto / edit by Akio Takashiro

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