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2020.11.14

豊田章男、ついに「ウーブン・シティ」に私財を投じる。その腹の内は

特別連載『深層・豊田章男』スタート

ジャストインタイム、カイゼン──。クルマの開発生産、ひいては製造業のけん引役を担ってきた世界のトヨタが、モビリティカンパニーへの転換を打ち出してから、その動きは加速している。その改革は、過渡期にあると言っていい。

改革の中心人物は、言うまでもなくトヨタ自動車社長の豊田章男(敬称略、以下、章男)だ。彼は一体、どんな覚悟で社運をかけた戦略の旗振り役をしているのだろうか。またトヨタはどこへ向かっているのだろうか。

章男の横顔を知る経済ジャーナリスト片山修が、書き下ろす特別連載。トヨタを巡るニュースの深層について、全5回でお届けする。


保守本流との闘い「変える勇気、変わる勇気」


「トヨタの“保守本流”と、この10年間にわたって闘ってきました」

豊田章男は最近、そのように語っている。

「でも、“保守本流”は今後も、社内から消え去ることはないでしょうね」ともいう。

それは、どういう意味か。

トヨタはいまや、自動車メーカーの頂点に立つ。しかし、だからといって、このまま“保守本流”のもと、モノづくりに専念していいのか。それで、生き残れるのか。

章男は、2018年に「モビリティカンパニー宣言」をした。しかし、実は、そのさらに7年前の2011年の東京モーターショーで、「次世代のクルマはスマホに4つの輪がつく──」と、章男は語っている。つまり、モビリティカンパニー宣言は、その延長線上にあるといっていい。すでにこのとき、章男は、カーメーカーから「モビリティカンパニー」への転換を構想していたといっていいだろう。

「自動車業界は100年に1度の大変革期にある」と、章男はしばしば口にする。だから、社員には“変える勇気”、“変わる勇気”をハラの底から持ってほしい、持たなければいけないと檄を飛ばす。

しかしながら、世界37万人のトヨタグループ社員が危機感をもって会社を変えるために立ち上がるかといえば、正直、はなはだ疑問だ。檄を飛ばしたくらいでは、社員は動かない。いまの章男の最大の苦悩かつ悩みは、この点にある。

それはそうだろう。20年3月期までの3年間、売上高は約29兆円以上、営業利益も毎年2兆円を超えている。日本経済を背負って立つ戦略産業であり、リーディングカンパニーそのものだ。当然、トヨタの社員の給料は半端ではない。となると、社員は現状維持を願う。これは、仕方がないというか、やむを得ない。ザックリいってしまえば、“笛吹けど踊らず”というのがトヨタの現状だろう。

振り返れば、豊田章男は、リーマンショック後、4600億円超の赤字に陥ったトヨタを翌年に黒字化したばかりか、大規模なリコール問題に端を発した米国での公聴会出席、東日本大震災など、次々と襲い掛かってくる難題を処理しながら、トヨタを再構築し、世界有数の自動車メーカーに押し上げた。その経営手腕は、多くの人びとが認めるところだろう。

にもかかわらず、肝心の社内では必ずしも世間の評価と一致しない。
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文=片山修

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