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2020.11.14

豊田章男、ついに「ウーブン・シティ」に私財を投じる。その腹の内は

特別連載『深層・豊田章男』スタート


トヨタの現場はそれこそ、1秒に命を懸けて“カイゼン”に取り組んでいるが、問題はホワイトカラーすなわち事技職(*事務系、技術系の総合職)にある。彼らの多くは、現状維持派だ。とりわけ、中間管理職のモチベーションが低い。一方、技術者はクルマの役割の変化に関心が薄い。部長クラスも前に進もうという意欲に乏しい。だから、社内は暗くなる。

「ウーブン・シティ」社内の受け止めは冷ややか


その一例がある。章男は2020年1月、米ラスベガスで開かれたCESで、静岡県裾野市にあるトヨタ自動車東日本の東富士工場の跡地に「ウーブン・シティ」と呼ぶスマートシティを建設すると発表した。章男が打ち出した未来戦略だ。

トヨタが開発中のEV「イーパレット」や小型EVだけでなく、ドローンや空飛ぶタクシー、ラストワンマイルの移動から長距離輸送、走る歓びを感じられるクルマから完全自動運転車にいたるまで、多様なモビリティが行きかう未来の街を想定している。

約2000人がウーブン・シティに暮らし、生活データの収集をするが、その際、データ活用の主導権をあくまで市民や自治体が握る形にする。

こうした章男の乾坤一擲の挑戦に、世界が注目したが、社内は予想に反して、まったく反応がなかった。無関心だった。「章男社長はいったい、何を始めるつもりだろうか……」といったシラケた雰囲気さえ漂った。



世界と社内の反応の落差に、章男は衝撃を受けた。あまりの社員の無関心、無反応に、「オレはいったい、この10年間何をしていたのか」と、ガックリ肩を落としたのだ。

典型的な大企業病である。いや、官僚主義に侵されている。トヨタは不沈艦で、絶対に沈まないとタカをくくっている。まさしく、「トヨタの敵はトヨタ」──だと見るべきだろう。

まだある。若手の退職が目立っている。トヨタでは、いいたいことがいえず、自らの成長を実感できないなどといって辞めていく。これは、経営陣の間で、いま、もっとも危機感をもって受け止められている現象だ。
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文=片山修

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