南アフリカワインの輸出促進団体である南アフリカワイン協会(Wines of South Africa、WOSA)の統計データによると、2019年現在のワイナリーの数は約3000件。2015年時点のレポートによると、約29万の直接雇用と、南アフリカのGDPの1.2%にあたる約360億ランド(現在レートで約2300億円)の経済効果をもたらした。
ワイン業界は、アパルトヘイト後の黒人の経済力強化(BEE)政策によって黒人参画の可能性が広がった業界の一つではあるが、参画の規模・幅はいまだ限られているようだ。WOSAのサイト上で公開されている数字によると、南アフリカにおける黒人経営銘柄は50前後、土地所有については全体の1.5%程度にとどまっている。
一方で、起業家らの個性が反映された銘柄は国内外でも注目され始めている。本記事では、黒人の事業参入のハードルについて考察したうえで、注目のブティック型ブランドをいくつか紹介する。
ワイナリー業界参入への高いハードル
ワインブランドは、自らの農地でブドウ栽培を行い、ブランディング・卸売りまでを行うワイナリー銘柄(estate wineries)、農地や設備の共同所有などを通じてワイン生産を手がける醸造メーカー(producing cellars)、ブドウやワインを買い取りボトリング・ブランディング販売に注力する卸売ブランド(independent cellars, producing wholesalers)の3つに分類される。
バリューチェーンへの投資や参画が少ないという意味で、卸売銘柄事業への参入障壁が最も低いが、農地の所有型では、事業コントロールの幅の拡大につながるというメリットがある。
人種間における土地所有や分配の課題が根強く残る南アフリカだからこそ、ワイン銘柄事業の分析における、黒人経営者による農地所有の有無は特に重要なポイントだ。2012-13年発行と少し古い研究ではあるが、ワイン産業への黒人の参入については、JETRO地域研究センター、アフリカ研究グループ所属の佐藤千鶴子がいくつかの報告書を発表している。
2013年の報告書では、民主化後、1997年より流通が自由化したことで南アフリカのワイン産業全体が拡大し、同時に新たな銘柄創出の事業モデルが展開したことと、BEE政策により白人と黒人の共同出資スキームによる土地取得が可能になったことは、黒人の事業機会につながった。
共同出資や銘柄ビジネスは、市場競争力を維持するための十分な経営戦略資源にかけており、事業の持続性という面での限界も指摘されているが、差別化戦略による黒人経営銘柄が成功につながる可能性も示唆している。