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2020.12.10

1冊10分、「自炊」が変わる? 革命的な「非破壊型スキャナー」も

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もう死語?「自炊」「自炊代行」


そういえばここ最近、「自炊」という言葉をあまり聞かなくなった。ここでいう自炊とは、自らのために料理をすることではない。上記のような、手持ちの書籍を場合によっては解体し、スキャナーで読み取り、データベース化することだ。アマゾンで「自炊用断裁機」が飛ぶように売れていた時代を懐かしく思い返すむきも少なくないかもしれない。

しかし、自炊を個人で行うにはコストも時間もかかる。そのため、そうした一連の作業を請け負う「自炊代行業者」も多く存在した。

だが現在では、自炊の「代行」行為は著作権法上問題があるとみなされている。

自炊はあくまで「私的目的」(ここでは、「自分の書物を自分や家族などが使用する目的」のこと)で利用する場合にのみ許される行為であって、自炊代行では、依頼者が所有する書物を第三者である自炊代行業者が「営利目的」で自炊するためである。

だが、今でもそうした自炊代行サービスは少なからず存在している。そのうちのひとつである「未来BOOK」では、顧問弁護士監修のもと、スキャンを許可していない著者の書物は請け負わないことを徹底している。

背中合わせにある「使用者モラル」──


さて、高精度スキャナーの台頭に話を戻そう。これまでと比べてコストや手間、利便性からみても「自炊」が格段に容易になり、スキャンされたデータがインターネット上に違法にアップロードされる危険性も高まるのではないか。

出版業界で30年以上のキャリアを積むN.T.氏は、「このようなものを使われては、出版業界はおまんまの食い上げとなってしまう」と、高性能なスキャナーの普及に懸念を抱く。

同じく書籍編集者として長くキャリアを積むK.N.氏はこう話す。

「『物理的な本』の場合、手放した自分自身の蔵書が『古書』となって市場を回遊することは、回読率アップにもつながり、むしろ歓迎していいと思っています。だが、ことカテゴリーが『デジタル』になると、いくら同じように回読率が上がっても話は別。図書館でもコピーできるページ数は決められていますし。自分の蔵書以外の制限なき複製が技術的に容易になってくると、旧来以上にわれわれのモラルが問われますよね」

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文=長谷川 寧々 編集=石井 節子

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