ビジネス

2020.11.13

実はアナログ? IDEO的「データ活用」のアプローチ

(c) IDEO Tokyo


数年前、IDEOはProcter & Gamble(P&G)米国本社から相談を受け、「社内のコラボレーションを促進するにはどうすればよいか」という、漠然としながらも差し迫った問題に取り組んでいた。

もともと、P&G 研究開発グループのマネージャーであるキャシーは、同社の研究者やエンジニアから専門知識のリクエストを受け、組織内で最も有用な専門家を紹介する、ということをしていた。しかし、組織がどんどん膨らみ、2万人を超えた頃には、どのようにして適切な専門家を見つけ、彼らを繋げるかが大きな課題となっていた。

紙とペンのスケッチから


IDEOチームはまず、データ収集から始めるのではなく、既存の利用可能なデータを調査することから始めた。チームは、名前、役割、場所の情報が記載されている人事記録と、誰が誰と一緒に仕事をしたかの情報が記載されている社内の研究論文という2つの有望なデータソースに着目した。

ここから、チームは多くの初期アイデアを、紙とペンでスケッチした。


(c) IDEO Tokyo

その中で有望だと考えていたアイデアは、社内で迷宮化していた専門家同士の関係性を可視化する、インタラクティブなネットワーク図だった。彼らは、キャシーがこの図を使って、それまで気づかなかったコラボレーションの機会を見つけることを想像していた。

ところがキャシーは、このネットワーク図に全く興味を示さなかったのだ。彼女が惹かれたのはそれよりも、組織内の誰がどのような専門知識を持っているかをまとめただけの、シンプルな棒グラフのスケッチだった。キャシーにとって本当に必要だったのは、組織内の多くのつながりを見るための方法ではなく、組織内の多様性や専門性を簡単に把握するための方法だったのだ。


チームが実際にクライアントに見せた棒グラフとネットワーク図のスケッチ (c) IDEO Tokyo

そこからチームは、スケッチや質問の解像度と具体性を徐々に上げながら、問題の核とその問題を解くために必要なモノを、反復的に明らかにしていった。IDEOチームのプロトタイプは、どんどん形を変え、最終的にキャシーが今日まで使い続けている、データと高度なアルゴリズムをうまく活用したカスタム検索エンジンへと進化した。

最初から完成度の高いアイデアを見せようとすると、課題の核に迫るチャンスを逃すこともある。このケースも、簡単なスケッチから始めたことで、データからどのような情報を抽出し、可視化しようとしているのかを素早く提示することができ、それに対するクライアントのフィードバックを基に、本当に必要な情報が何なのかを推察することができた。
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文=越島健介&ジョー・ガンビーノ(IDEO Tokyo データサイエンティスト)

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