リモート時代の教育は「ぬまっち」に聞け。生徒が全集中する授業のつくり方

沼田晶弘


だから、ネタがないなら作っちゃおうということで、僕がマイクを持って教室に入り、記者会見を開くんです。「記者の皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。これより、沼田晶弘、新潟出張記者会見を行います。質問される方は、出版社名とお名前を言ってから質問してください」とか言って。

子供たちは僕に質問して、メモをとる。そのメモから情報を取捨選択して記事にし、「ルパン」をします。ルパンというのは、みんなに作品を見せ合う時間のことです。ルパンって、盗んだときに「お宝いただきました」というメモを残しますよね。それと同じように、いいなと思う人の新聞に「このアイデアいただきます」という付箋を貼るんです。自分の新聞に付箋がたまると、嬉しいじゃないですか。

でもこれって、やっていることは作文と同じなんですよ。学習指導要領に沿っている。でも、「今日は作文だよ」と言うとみんな「えー」と言うけど、「記者会見しよう」と言うと「いえーい!」と言うんです。言葉を変えているだけなのに。

僕が結婚したときにも記者会見を開いて、新聞を書いてもらいました。新聞は事実を書くものだと言ったのに、なぜか週刊誌調なんですよ(笑)。「お幸せに」と応援してくれるものもあれば、「果たしてうまくいくのか!?」という厳しい論調もあって。結婚パーティーで壁一面に貼りましたが、好評でした。


(写真:林ユバ)

──なんておもしろい授業! 小学生をやり直したくなりますね。

他にも、今新しいことを始めていて。「ちょい足しでぺこぱ」っていうんです。

お笑い芸人ぺこぱの芸風は「ノリつっこまない」というのが特徴で、どんなボケにも優しく返すじゃないですか。だから、ことわざに一言加えて、それを優しくしてしまうんです。

たとえば、「青菜に塩、に油を加えて炒めると旨い」とか。

「青菜に塩」というのは、青菜に塩をかけるとしおれるように、元気がなくしょげている様子を表します。でも、それを油で炒めると旨い。つまり、弱っていても、そこに油という優しい言葉をかけて包んだら、それはいいアドバイスになるよという意味です。

「良薬口に苦し、ならゼリー」というのをつくった子もいました。良薬が苦いなら、ゼリーで流し込めばいいと。「辛くてもなんとかなるよ」という意味だそうです。

もちろん、元のことわざとその意味を知らないと、ちょい足しでぺこぱはできないので、みんな調べてくる。そうやって、今は子供たちと一緒にいっぱいつくっているところです。

──ぬまっち先生の授業のように、子供たちのやる気を引き出すメソッドは、ビジネスの世界でもつかえると思うんです。人間のモチベーションをあげる最大のコツは、何なのでしょうか。

1番は、自らやりたくなること。

中学生に「もう年頃だから、肉じゃがのひとつくらい作れるようになりなさい」と言ったって、右から左に受け流すだけです。でも、来週彼氏が来るって言ったら、メモを持ってきますよ。そういう時の学習や学びを、人は勉強だと言いません。本人にとっては、知りたくて調べているだけなんです。

だから、これをしたらおもしろいとか、もっと知りたいと思ってもらうこと。そのためには、「そもそもなんでやるのか」という理解が必要です。

先日、教育実習生が来て、一緒にウミガメの説明をやりましたが、彼らは「この段落とこの段落をつなげたらおもしろくなりそう」って言う。でも、そうじゃない。まずは、ウミガメ自体に興味をもってもらわないといけないんです。ウミガメがおもしろいと思ったら、自然と自らもっと調べたくなるはずです。

本来、褒められて嬉しいのは、大人も子供も変わりません。大人は羞恥心があるから、それを隠すだけ。でも、子供はどんなに隠そうったって、ダダ漏れです。それがおもしろくて小学校教諭という仕事にハマったというのもあるんですけどね。
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文=伊藤みさき

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