中学生のときに亡くなった父、車いすユーザーになった母、ダウン症の弟との日常を面白おかしく等身大につづるエッセイが、コンテンツプラットフォーム「note」やSNS上で大きな話題に。バリアフリーのコンサルティング企業で広報として10年間働いていた岸田奈美は、今年3月に作家として独立した。
9月にはデビュー作『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館)を出版。ほかにも、多くの媒体から立て続けに寄稿や執筆の依頼が舞い込むなど多忙な日々を過ごしている。
「予想もできない人生ですね」と、彼女は笑う。
確かにそうだ。村上龍の『13歳のハローワーク』を当時小学生の岸田に見せ、「ここに書いてない職業に就け」と話した父が2年後に突然亡くなり、その2年後には、障がいのある弟と同じようにたっぷりと時間をかけ、愛情を注いでくれていた母が倒れた。家庭内はぐちゃぐちゃ。壮絶な過去だったことは想像に難くない。
しかし、岸田の書く文章には同情を誘う文言や悲哀は一切存在しない。「物語をつくることでしか救われない」と岸田は言う。
「多くの人に読んでもらうことで、自分の過去を肯定しているのかもしれません」
何のために作品を書き続けるのか。聞くと「自分のため」と即答。
「誰かの救いにとか、幸せのためは考えられません。けど、いつか過去とは折り合いがつくはず。10年後、20年後には、社会や未来のためになるような作品を残せたらいいなと思います」
きしだ・なみ◎1991年生まれ、兵庫県神戸市出身、関西学院大学人間福祉学部社会企業学科2014年卒。在学中に株式会社ミライロの創業メンバーとして加入、10年に渡り広報部長を務めたのち、作家として独立。