ホワイトペーパーでは、AIの遵守ガイドラインについて、必須、任意の双方の遵守方式を取り入れた階層的なものにすることを提案しています。
必須条件は、上述した「高リスク」分野で事業を行う、もしくはAIアプリケーションを使用する企業(またはその両方の企業)に適用されます。これらは具体的には、「学習データ、AIアプリケーションの頑健性と精度に関して提供される記録管理情報、顔認証に対する人的監視の具体的条件」に関連するものです。
また、低リスク分野の企業や低リスクのアプリケーションを使用する企業(またはその両方の企業)には、AI搭載の自社製品やサービスの信頼性を示す任意のラベル方式を選択する自由が与えられる可能性があります。これらのガイドラインは、既にEU域内で重要性を増しており、このほど14の加盟国が、前述した遵守戦略とAI規制に対する(自己規制などの)ソフトロー・アプローチをより広範に支持するポジションペーパーに署名しました。
現時点では、異なる分類に関して曖昧な領域が残っています。例えば、事業者とアプリケーションの高リスク、低リスクの指定は欧州委員会が行うとみられますが、これらの指定が、まだ「高リスク」とみなされないながらも、リスクが比較的高いAI事業の周辺分野とアプリケーションを含む方向へと進む可能性があります。したがって、AIへの依存度が高い分野においては、自ら進んで規制遵守を選択するのが賢明です。
もっとも、EUではこれまでに公表されている規制はなく、多くがまだ制定の途中にあります。
例えば、AIの監視実行に関する重要な構成要素は、まだ策定されていないか、不明確な状況にあります。具体例を挙げると、個別の遵守条件の最終リストも、これら規制の組織的な採用を監督する施行メカニズムも、さらには欧州委員会とEU加盟国の間でAIプロトコルを調整するための明確なプロセスも、未だに存在しません。
しかし、確かなのは、土台が築かれつつあるということです。現に、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、2020年9月16日に行われた一般教書演説の中で、「人間を中心に据えたAIの一連のルール」の必要性を強調し、「欧州委員会が来年、これを実行する法を提案する」ことを確約しました。
いま、企業にできる準備とは
規制措置に対するこうしたコミットメントを後押ししているのが、これまでに採用されているさまざまなAIシステムが適切な審査を経ていないという意識です。明らかなのは、重要分野(雇用、医療、教育など)における人生を左右する決定に、AIの適用が増加することによって、現行の格差が再生、強化、拡大することがあってはならないということ。