ネットやテレビで何度も見た、アメリカの州が赤と青に色分けされていく地図。市町村別のもっと細かい地図で見ると、都市部は「青」のバイデン、地方の田舎はほとんど「赤」のトランプ支持となっていた。もっとも根が深いのは人種や宗教やイデオロギーの対立ではなく、都市と地方の分断だと言われるのがよくわかる。
だが正直なところ、アメリカ社会の分断の手触りは、報道からは日本に住む私たちになかなかリアルに伝わってこない。おそらく、「誰を支持しているか」という観点からだけでは見えないたくさんのズレや格差が、細かく潜在しているのだろう。
今回紹介する『午後3時の女たち』(ジル・ソロウェイ監督、2013)は、専業主婦とセックスワーカーの偶然の出会いから見えてくるアメリカのアッパーミドルの女性たちの日常を、シニカルかつユーモアを交えて描いたドラマである。
タイトルロールとともに映し出されるのは、オートマティック洗車中の車内にいるレイチェル(キャスリーン・ハーン)。
吹き出す洗剤と水がウィンドウを覆い、外は見えない。安全で安心だけど退屈という彼女の日常を、そのまま表すシーンだ。
レイチェルが住むのは、ロスのダウンタウンとハリウッドの間に位置するシルバーレイクの住宅街。80年代からアーティストやミュージシャンなどが移り住むようになり、おしゃれなカフェやショップが集まる街として若者に人気の地区だ。
ビバリーヒルズに住めるほど裕福ではないが、小綺麗な戸建てと車を所有し、高学歴で、土地柄古い因習にも囚われないアッパーミドルたちの街。
白い石造りの塀に囲まれたレイチェルの自宅は、窓の多い開放的な造りで庭にはプールもあり、夫ジェフはアプリ制作で成功したクリエイター、幼い一人息子は幼稚園に通っている。
周囲にいるのはレイチェルと同じく、夫の高収入のお陰で仕事を持たず、ママ友会やボランティア、ジム通いに時間を割ける優雅な専業主婦たちばかりだ。
何不自由ない生活だが、ママ友のつきあいには飽き飽きしている上、ジェフとは半年もセックスレスということがレイチェルの目下の悩み。ブラとストッキングだけの姿で夫と交わす日常会話から、仲は悪くないが性愛の情熱は消えかかっている30代夫婦のリアルな姿が浮かび上がってくる。