専業主婦とセックスワーカーから見た アメリカ社会の小さな「分断」

(c)2013 AFTERNOON DELIGHT, LLC ALL RIGHTS RESERVED


刺激剤か、爆弾か


大学を出て少し働いたが結婚してやめ、優雅な専業主婦の座に収まりつつ被承認欲と性欲を持て余している女と、貧困層の出身で母親に送金するため富裕層男性の性欲を手玉にとって稼ぐ女。

住むところも違えば入る店も違う、普通なら決して出会うことのない2人が出会った時、後者は相手の恵まれた生活レベルにただ素直に感嘆するだけだが、前者は偽善と本音の戦いで自意識がもみくちゃになり、人間性の浅さが露呈されるのである。

ついに本音が勝ったレイチェルが、「時給250ドル」だというマッケナの仕事についていく場面が面白い。おそらくビバリーヒルズの中の超高級住宅。ホテルのようなリビングでレイチェルは緊張のあまり挙動不審となり、初老の男性とマッケナの激しいセックスを前に、直視できないけど見たいという葛藤で固まってしまう。

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レイチェルにとってマッケナは、自分の退屈で平凡な生活に突然降って湧いた特別な刺激剤だ。逆に言えばその程度のものとして、相手の存在を舐めていたとも言える。刺激剤だと思っていたものは、ちょっとした爆弾でもあったから。

女子会と称してママ友リーダーの家に集まった夜、当然のように出てくるセックスをめぐる話の中で、周りが引くほどあけすけに自分の過去を喋り散らかすレイチェルには、友人たちへの優越感とコンプレックスが錯綜する。

一方、ジェフを含む夫たちの集まりの場には、一人残されたマッケナが入り込んで次第に妙な盛り上がりを見せていく。

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アッパーミドルの妻たちがワイン片手に互いの性生活に探りを入れている間に、夫たちは仲間外れにされた若いセックスワーカーを欲望の視線で眼差している。この構図は実に皮肉だ。

「爆発」の後、交錯した階層は幾つかの亀裂を含みつつ再び元に収まり、レイチェルは一抹の罪悪感を覚えながらも安堵する。これで良かったの? でもこれしか仕方ないよね、と。

私自身も含め多くの人に覚えがあるはずの、この罪悪感と安堵のブレンドされた感情こそが、見えない「分断」を維持し続けているのかもしれない。

連載:シネマの女は最後に微笑む
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文=大野 左紀子

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