風景や人物にかぶせ、ツールブラシで上書きされた色と光のライン。2.5次元のような立体感で浮上しつつ、写真の中を宙で静止するリボンのごとく漂う。街角にスプレーで描かれたタギングを思わせるが、文字のような意味はもたない。
「書」の筆運びを意識しながら、むしろ「動きが意味を崩して、情緒が生まれる効果」を狙うという。そんな小林健太の持論はこうだ。
「作品とは、その人を通して『環境』がつくらせたもの」
高校は肌が合わなかった。普通に進学して就職すると思っていた矢先、美術の世界に触れる。「YouTubeで「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」の映像を見てカッコいいと思い、そこからウォーホルを知った」。彼が築いたアートスタジオ「ファクトリー」に強く興味を引かれた。
ニューヨーク中のクリエイターが集った創造の拠点。そんな「環境」に憧れて、大学2年生から3年間、シェアハウス「渋家(SHIBUHOUSE)」に入居する。「自分は環境に左右されるタイプ。そこが長所だとも思う」。
絵画を専攻していたが、あるドキュメントフォトに影響を受けて写真に転向。その作品は渋家のコミュニティを生き生きと捉えたシリーズだ。「バイトも器用にできるタイプではなくて、渋家で身内の仕事を手伝いました」。他者の表現や技術に触れるうち、いいと感じたものを自分の中に吸収した。
将来の夢は「科学と芸術が融合したラボラトリー」をつくること。そんな環境を生み出すため、「30代のうちにきっかけをつかみたい」と目を輝かせる。
こばやし・けんた◎1992年、神奈川県生まれ。主な個展にLittle Big Man Gallery「Live in Fluctuations」(2020年)、G/P gallery「自動車昆虫論/美とはなにか」(2017年)。サンフランシスコ アジア美術館に作品収蔵。