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2020.11.10 18:00

「一人称で語れ」という理由

日本IBM代表取締役社長 山口明夫

日本IBM代表取締役社長 山口明夫

「最近、『IBMの社員は変わった。明るくなったよ』と言われることが増えました。これは、私にとって最高の誉め言葉。まあ、いままでどれだけ暗かったんや、と思いますが(笑)」

7年ぶりの日本人社長誕生から1年。改革の進捗を尋ねると、山口明夫社長は快活に答えた。

事実、少し前の日本IBMは暗い話題が目立った。2012年、米国IBM副社長だったマーティン・イェッター氏が社長に就任。世界標準へのシビアな改革を行い、その意向に異を唱える社員が続出した。

低迷から抜け出すために必要な痛みだったが、外国人社長がさらに2代続き、いつしか社員の表情から笑顔が消えていた。

危機感を覚えた山口が就任早々掲げたのは、「枠を超えて」というコンセプトだ。日本IBMは米国流のジョブ型人事を採用していた。しかし、社員が自分のロールにこだわるあまり、チームがギクシャクする場面もあった。そこでロールの枠を超え、チームやパートナーに貢献することも評価の対象とした。

「自分の目標を達成することは、もちろん喜びですよ。ただ、人間は、自分がチームで必要とされていると感じたときに最もパワーを出せるし、いきいきと働けるのでは」

チームを機能させるには、メンバーがお互いにリスペクトし合うことも大切だ。山口はそのために「人を色眼鏡で見るな」と説く。

「米国IBMだからあの人はすごいとか、小さな仕事の担当だから偉くないとか、人は自分の中で勝手に序列を決めがちです。しかし、色眼鏡で見ると相手の本当の姿が見えない」

属性や肩書ではなく、その人の中身を見る。山口がそのことを意識し始めたのは、入社3年目で保守部門に異動したときだ。保守はシステムの最終工程で、花形ではない。社内でも軽く見られがちだったが、常駐先で目撃したのは先輩たちのプロフェッショナルな姿だった。

「障害が発生すると、保守の人たちは自分たちがつくったものでないのに、お客様から厳しくお叱りを受けるわけです。内心では気にしていたかもしれませんが、先輩たちは冷静に原因を分析して問題に対処していた。その姿がかっこよくてね。裏方だろうと関係ないと思いました」

05年に赴任した米国IBMでの経験も大きい。英語のコミュニケーションで苦労したが、「英語だけで判断せず、いろんな人が『あいつは真面目で、技術もある』と助けてくれた」と、本質を見て評価することの大切さをわが身で実感した。
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文=村上 敬 写真=間仲 宇

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