ビジネス

2020.11.10

山極寿一x石川俊祐 大切なのは「良い問い」があるかどうか


石川:同じ組織の中でも働く力が変わることもありそうですね。例えばチームで仕事をするときと個人で仕事をするとき。組織のデザインにおいては、そのリズムをリーダーがファシリテートできる状態であることが非常に大事だと思っています。このような状態を作ることを、私は「気持ちのデザイン」と呼んでいます。

山極:組織というのは単なる構造物ではなく生き物ですからね。家族でいる時、数十人の集団の時、百人規模の集団の時では脳の働かせ方が違います。集団の規模や役割に応じて設計する必要があるんでしょうね。

石川:従来は形があるものだけがデザインだとされてきました。しかし今、組織や会社など、有機的な繋がりを設計することもデザインの一部だという認識が広がり始めています。

山極:イノベーションも同じです。モノや製品を生み出すことから、世の中の価値を変えることへと捉えられ方が変わってきている。今年6月の通常国会の決議で、科学技術基本法における科学技術の定義から、「人文科学を除く」という項目が取り除かれることになりました。

石川:デザインが暮らしや会社の組織やカルチャーの価値や構造を変えるという話に膨らんできたということと似ていますね。

山極:人というのは全て違う個性を持っています。だから、同じものを見ても違うように見える。従来の意味での科学では一つの「正しい」答えしか導けなかったところに、人間的な視点を持ち込んでいく。その辺りにイノベーションのヒントもあるのではないでしょうか。


山極壽一◎京都大学理学部卒、同大学院理学研究科修士課程修了、同大学院理学研究科博士後期課程研究指導認定、退学。京都大学理学博士。(財)日本モンキーセンター・リサーチフェロー、京都大学霊長類研究所助手、同大学院理学研究科助教授、教授を経て京都大学総長(20年9月退任)。

石川俊祐◎KESIKIパートナー。英Central Saint Martinsを卒業。Panasonicデザイン社、英PDDなどを経て、IDEO Tokyoの立ち上げに参画。Design Directorとしてイノベーション事業を多数手がける。BCG Digital VenturesにてHead of Designを務めたのち、2019年、デザインファームKESIKI設立。多摩美術大学TCL特任准教授、CCC新規事業創出アドバイザー、D&ADやGOOD DESIGN AWARDの審査委員なども務める。Forbes Japan「世界を変えるデザイナー39」選出。著書に『HELLO,DESIGN 日本人とデザイン』。

「石川俊祐のデザインの本質」
第一回:深澤直人x石川俊祐 今改めて考える「デザインの本質」

構成=水口万里

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