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2020.11.10

山極寿一x石川俊祐 大切なのは「良い問い」があるかどうか


ロジックは後付けである


石川:そういった共感能力というのは、人間が元々持っていた能力なのでしょうか。

山極:正確には、人間の中でも狩猟採集民に特有の能力ですね。自然の中にある食べ物を探して食べる生活をしている彼らにとって、自然とは「友」です。だから動物はもちろん、木、川、石など、神羅万象あらゆるものと会話ができた。やがて、誰も見たことがない死の世界について考えることができるようになるのですが、これらは人間が共感を通じて想像力を発達させてきたおかげです。

石川:なぜ、人間だけがここまで共感能力を発達させることができたんでしょう。

山極:言葉の存在が大きいですね。というのも、人間の最初の言葉はアナロジーだったんです。あの部族は狼だ、とかかライオンだ、などというように誰もが共有できるイメージを使えば説明が要らない。そうやって、身体感覚を他者と共有することで対話し、さらに想像力を発展させていきます。石のように頑固になる、とか川の流れのように澄んだ気持ちになる、などという表現ですね。

石川:言葉はロジックであり、頭のなかで完結しているものだ、と思っていたのですが、そもそもは「なりきり」や共感のうえに発達してきたのですね。

山極:その通り。言葉はやがて壁画などに発展していきます。壁に手形を残すというのはまさに一番簡単なデザインと言えるかもしれないですね。

石川:デザインが身体感覚の共有から生まれた、という話は非常に興味深いです。

山極:ロジックというのは結局後付けなんですよ。我々人間は自然に属しているわけですから、当然といえば当然です。例えば何らかの危険に直面したとき、人間は反射的に行動します。ネズミを見つけたら、その形や動き、そして距離に対して本能的に反応する。そのときにロジカルな思考なんて役に立ちません。

石川:おっしゃる通りだと思います。一方で、世の中の物やサービスの生まれ方は意外と論理に基づいているとも感じます。会議室での議論の上に成り立っているというか。その結果、ユーザーにとって使いにくいものになっていることが多い。

山極:デジタルトランスフォーメーションが叫ばれる今、情報化できる知能を外出しにして、論理の上で解決しようという動きがあります。これはロジックの偏重ですよね。でも、人間社会の根拠が論理にあるというのもまた一つの事実ではあるんです。例えば法律は論理でできていて、感情で動こうとする個人を抑制する。悔しい、とかあいつを殺したいという思いが芽生えたとしても、行動を起こす前に思い止まらせる。実はこの機能が動物社会と人間社会の違いでもあるんです。

デザイン的思考は人間の脳のバランスに近い


石川:行動の理由となる感情と、それを抑制する論理。人間の社会は両方を併せ持っているということですね。

山極:その意味で僕はデザインというのは、人間の脳のバランスに非常に近いんじゃないかと思うんですよ。

石川:どういう意味でしょう。

山極:人間の頭の中というのは論理と感情が混ぜ合わさってできています。デザインも同じでしょう。
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構成=水口万里

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