当時、ブルックスは協働ロボットの開発を手掛けるスタートアップ「Rethink Robotics」の事業を縮小しており、2018年10月に同社を廃業した。ブルックスはマーカスの誘いに応じ、Rebooting AIの共同創業者兼チーフ・テクノロジー・オフィサーに就任した。
「我々は、ロボットが現在のような制約された環境ではなく、現実世界で働くために必要なソフトウェア・プラットフォームを提供したいと考えた。ゲームエンジンを使えばビデオゲームをすぐに開発できるが、家庭用ロボットの分野では、同じようなソフトウェアが存在しない」とマーカスは話す。
「言語処理」が抱える課題
ビデオゲームを開発する場合、ゲームエンジンを使えば物体を衝突させる場所の決定といった面倒な作業はソフトウェアが行ってくれるので、開発者はクリエイティブな仕事に集中できる。マーカスは、ロボティクスでもエンジニアたちにロボットオペレーティングシステムなどのプログラムを組み合わせて特定の問題に対応させるのではなく、ゲームエンジンのような基盤が必要だと考えている。
これまでAIに依存してこなかった業界が新たにAIを導入するようになると、基盤となるソフトウェアに対する需要が高まることが考えられる。
「これまでAIを導入していなかった企業は、今後必要になるか、欲しいと考えるはずだ。しかし、全ての企業が世界クラスのAI研究所を保有することは不可能であり、誰でも簡単に導入できるようにしなければならない」とブルックスは話す。
マーカスによると、短期的には人や物体を避けたり、目障りにならないにようするソーシャル・ナビゲーションに専念し、長期的には言語をより正確で効率的に処理できるようにすることを目指すという。言語処理が正確になれば、例えば物をクローゼットに入れるように指示した場合に、ロボットがクローゼットに無理やり収納するためにモノを切るようなことがなくなるという。
「私の著作であるRebooting AIの中で、言語処理においてディープラーニングを使ったアプローチがなぜ機能しないか説明した。今でもその主張が正しいと確信している。根本的な問題は、我々が必要なことを全て口にしないことにある」とマーカスは語った。