未踏領域のデザイン。宇宙は私たちに新しい視座を与えてくれる

(c)2020 Shunji Yamanaka


──民間企業による宇宙開発といえば、アメリカのBlue Origin社やBoeing社などといった企業の取り組みも勢いがあります。

どの企業の取り組みも興味深いですが、SpaceX社ほどの余裕を持った革新的な宇宙開発には至っていないように思います。ただ、それでもアメリカの企業は、宇宙開発においてスタイリングデザインを施すことの意義を理解したうえで、ある程度予算を確保しながら開発をしているなという印象があります。NASA自体がスタイリングデザインという概念が根づいていますから。

スターライナーの写真
(左)Blue Origin社の研究開発施設 (c)NASA /(右)NASAの計画の下、Boeing社が開発中の有人宇宙船スターライナー (c)Boeing

──それは冒頭で話されていた "デザインとエンジニアの深い協働"がアメリカの宇宙開発には浸透しつつあるということでしょうか。

そうですね。日本ではデザインというのは一般的には色、形を決めることだと思われがちですが、英語のdesignという言葉には「機能をかなえる"設計"」という意味も含まれているように、本来のデザインはもの作りの、特に発想寄り、計画寄りの部分を担っているはずなのです。私が考えるデザイナーとは、エンジニアの領域、素材や基礎技術段階から関わり、全体に影響を及ぼす存在であること。つまりもの作りの源流に携わる必要性があるということです。

──その視点に立ったときに、山中さんには日本の宇宙開発はどう映って見えていますか?

日本では設計とデザインは別の言葉として輸入されているので、職能としてもスタイリングを決めるのはデザイナーで、機能を設計するのはエンジニア、というように分離していた時期が長い。それが宇宙開発のような国家規模のプロジェクトには特に影響しているように感じています。つまり研究開発費の一部としてデザインは認められにくかった。なぜならデザインとは「売る」ためのツールとして見なされていたからです。

そういう背景がありますから、日本の宇宙開発はスタイリングデザインという概念自体の浸透が薄いと思います。H-IIAロケットなど国産ロケットを実際に見てみても、考え抜かれて構造・設計されているのはすごく理解できるのですが、そうした技術開発における最初の現場からデザイナーが立ち会うことができれば、より良い機能美とともに人々の感性を刺激するロケットができると私は思っています。

──山中さんは実際に種子島にてH-IIAロケットの打ち上げをご覧になっています。

はい、2002年ぐらいの頃に種子島でH-IIAの打ち上げを見学させてもらったことがありますが、とても感動しました。種子島は世界一美しいスペースセンターといわれているそうですが、今もあのとき見た光景は目に焼き付いています。それもものすごい轟音なので、改めて宇宙開発とは膨大なエネルギーを使うものなのだなと、実感しました。

種子島宇宙センター
種子島宇宙センター|種子島宇宙センター
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取材・文=水島七恵

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