なぜSNSでの誹謗中傷はなくならないのか? 今すぐできる法的対策とは

Fabio Camandona/EyeEm/Getty Images


その流れを追っていくと、まず誹謗中傷の書き込みをした人物は、「彼女の両親自体が失敗作」「名誉男性」といった内容をツイッターに投稿。春名さんはこれを名誉毀損だとして、2018年10月から、ツイッターや通信会社に民事訴訟による発信者情報開示の手続きを進め、2020年1月には刑事告訴にも踏み切りました。

それから半年後の今年7月、投稿を行った人物の代理人弁護士から「示談と引き換えに刑事告訴を取り下げてほしい」との連絡が来るも、「刑事、民事の両方で勝訴し、今後のためにも判例を作ったほうが良い」との考えから示談を拒否。

しかし、各方面から検討を行った結果、「このまま裁判を続けても、現在の法律では軽微な罰で終わってしまう」とのことから、結局示談に応じたとのことでした。

この春風さんのケースは、春風さん側が納得する形で着地しているぶん、成功事例と言えるのかもしれませんが、先に挙げたいくつかの問題も同時にはらんでいたと言えるでしょう。

ひとつは問題を解決しようと決意してから解決まで、あまりに時間がかかりすぎていること。さらには、このケースでは315万円の示談金で着地できていますが、多くの場合、これよりもっと安い金額での解決となってしまうこと。もうひとつ、「現在の法律では軽微な罪で終わってしまう」ことから、訴訟を諦めたことです。

急ピッチで進む新しい法制度の検討


インターネット上での誹謗中傷が炎上した場合、多大な精神的プレッシャーのみならず、本人どころか家族や友人などにも直接の被害が拡散してしまいます。そうした誹謗中傷による心の傷の深さに比べて、あまりにも賠償額が少ないことがずっと問題視されてきました。

こうした現状や痛ましい事件が相次いだことによる世論の高まりから、現在急ピッチで新しい法制度の検討が進められています。もっと手続きを簡単に、そして賠償額を高額にできないのか、そのための議論が行われるようになりました。

10月26日、総務省は、インターネット上で誹謗中傷を受けた被害者の救済策を議論する有識者会議を開き、年内の最終取りまとめに向けて、骨子案を提示しました。

この骨子案には、悪質な投稿をした加害者を迅速に特定するために、新たな裁判手続きを創設すること、被害者の負担をより軽くすることを目指すと明示されています。さらには、加害者がSNSにログインした時の通信記録も開示対象に含めることが盛り込まれました。

これが実現すれば、これまで難しいとされていた誹謗中傷を書き込んだ人物の特定が、従来の情報開示訴訟よりもかなり迅速にできるようになるでしょう。

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文=元榮太一郎

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