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放送作家・脚本家、「くまモン」の生みの親。


再現料理に託す思い


blankには「再現メニュー」というのがある。会員のリクエストがあれば、料理人の山田ゴローが実際にその店に食べに行き、味を確認し、店で再現してくれるのだ。黒板には「六本木キャンティのバジリコ」「三茶アレックスのハワイアンポークソテー」「浅草牧野の蟹大根鍋」「横浜中華街東北人家の餃子」などのメニューが並んでいて、もちろん、ほかの会員やゲストも注文することができる。

「洋庖丁のスタミナ焼き定食」は、blankの共同経営者である高野真さんのオーダーだ。もともと月に最低一回は高田馬場店に赴いてスタミナ焼きを食べていたらしく、blankで食べられるようになったことを非常に喜んでいた。

僕も洋庖丁のスタミナ焼き定食が大好きだ。大学時代、洋庖丁は僕の通う大学のある江古田に店を構えており、昼は学生、夜は若い会社員でにぎわっていた。スタミナ焼きはニンニクがよく効いており、生の黄身とかき混ぜると非常に味がマイルドになって、白米によく合う。洋庖丁ではゴマ塩が使い放題なので、若いころは白米にまずゴマ塩をいっぱい振って食べ、次にスタミナ焼きをのせて食べていた。まさに育ち盛りの男子学生が好む料理だ。

当時の江古田には中華料理の大盛軒、牛丼の松屋の1号店もあり、よく通った。大盛軒の名物と言えば「鉄板麺」。熱々の鉄板の上に野菜と豚バラ(か、ベーコンを選べる)がのっており、さらにミニラーメンが付いていた。ずいぶん前に閉店してしまったが、東中野に同じ名で「おおもりけん」と読む店ができ、鉄板麺を提供している。のれん分けか店員に尋ねてみたが、関係はないとのことだった。

洋庖丁や大盛軒のような店に行くと、たちまち「あのとき自分はこういう将来を夢見ていた」「こんなことを頑張っていた」と、大学時代の自分に立ち返る。それはまるで“人生の栞”のようだ。きっと誰しもがそんな店や味を大切にしているのだろう。

今月の一皿

「洋庖丁のスタミナ焼き」。ニンニクの効いた肉野菜に生の黄身がからみ、誰もがぺろりと平らげてしまう一品。



blank



都内某所、50人限定の会員制ビストロ「blank」。筆者にとっては「緩いジェントルマンズクラブ」のような、気の置けない仲間と集まる秘密基地。


小山薫堂◎1964年、熊本県生まれ。京都芸術大学副学長。放送作家・脚本家として『世界遺産』『料理の鉄人』『おくりびと』などを手がける。エッセイ、作詞などの執筆活動や、熊本県や京都市など地方創生の企画にも携わっている。

写真=金 洋秀

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