2020 Finalist Interview

ファインテック 代表取締役社長 兼 最高技術責任者 本木敏彦

#06

「切断品質」の追求により、
あらゆる産業の生産性向上に寄与

本木は、1985年に半導体金型部品の製作事業で起業した。それ以前の13年間は、産業機械メーカーの三井三池製作所で設計の仕事に就いていた。現在、本木の名刺に「代表取締役社長」と併記されている「最高技術責任者(CTO)」の肩書きに、これまでに歩んできた道のりと矜恃を感じさせる。

「当社は2009年から『世界一の(産業用)刃物メーカーへ!』という基本方針を掲げています。産業用精密刃物の量産を開始したのは1987年。刃物は人類がはじめて発明した道具であり、その起源は250万年前とされています。古来道具として人類に寄り添ってきた刃物に、当社は刃物づくりを革新させることによって、新たな命を吹き込み、人類史上かつてない機能性を刃先にもたせるべく、日々邁進しています」

獲物を食べるために、または食用の肉と防寒着用の毛皮に分けるために。すなわち、生きるために人類は「切る」という行為を積み重ねてきた。「切る」は「生きる」に等しかった。そして現在、産業界のどのジャンルを見渡しても、「切る」という工程なしで成立するものづくりを探すのは難しい。

「ファインテックの精密刃物は自動車産業、医療産業、半導体産業、電子部品産業、航空機産業、食品産業、繊維産業、プラスチック産業、高機能フィルム産業、ゴム産業など、ありとあらゆる産業に対応しています。産業用刃物は、ただ単に切れるだけでは不十分です。切断面にバリやゴミなどが残ると、それを除去するために、莫大な手間のかかる後処理工程が必要になります。当社がもたらす『切断品質』は、そうしたあらゆるムダな作業によるコスト増や製造スピード低減の問題を解消し、各種の産業で劇的な生産性向上に寄与しています」

14年にはミクロメーターから
ナノメーターの世界へと躍進

近年、あらゆる産業において、まさしく日進月歩の技術革命が起こり続けている。それはすなわち、生産現場で目覚ましい革新が生まれていることを指す。

「刃物の命は、刃先です。当社が『世界一の(産業用)刃物メーカー』を目指すと決めた2009年当時、刃先を加工するにあたって精度を突き詰められる単位はマイクロメーターでした。それが、14年以降はナノメーターの単位まで精度を高めていく技術が確立しました。ナノメートルは、1メートルの10億分の1、地球を1円玉にしたぐらいの極小の世界です。この領域に達すると切り口の品質が劇的に変わります。ナノメートルの精度で各生産現場に求められる形状に刃先を加工することにより、ファインテックの刃物の事業領域は一気に広がりました」

マイクロからナノに到達する道のりには肉眼では確認できない険しさがある。1987年から超硬合金を用いて産業用精密刃物を製作してきたファインテックの知見をもってしても、およそ5年という歳月を要することになった。「簡単な技術革新ではありませんが、『我々なら必ずできる』と信じていました」と本木は振り返る。

「現在、ファインテックの社員は269名です。その14%にあたる40名が開発部門にいます。そして、年間売上の約5~6%を開発費にまわしています」

ファインテックの高機能切断装置は、さまざまな産業の現場に合わせたオーダーメイドでつくられている。パーソナライズされた刃物の品質と機能性が各現場に驚きと感動をもたらしている。それと同時に、取引銀行の担当者は上記の数字を示され、驚いているに違いない。一般的なメーカーと比べて、開発部門の人数および開発費の割合が高いからだ。だが、これは最高技術責任者(CTO)として開発部門の指揮を執る本木が譲れないポイントである。

ピコメーターの宇宙を目指し、
「ブレードバレー構想」へ

いま現在、ファインテックが取り組んでいる「最先端」の世界は、どのようなものになるのだろうか。

「現在は、刃物の先端を15ナノメーター(10億分の15メートル)の精度で尖らせる技術にまで到達しています。刃物の材料となる超硬合金は難加工素材とされていますが、私たちの挑戦は、まだまだ続きます。さらに開発を続け、2ナノメーターを目指しています。この数値を達成できれば、今後の医療分野に対し、大きな貢献を果たすことができるからです。現在、さまざまなお話をいただいているのですが、そのなかのひとつが『細胞の地図をつくる』という研究です。細胞の地図が作成できれば、異常がわかり、異常を正常にするための薬を生み出すことができるというものです。脳における細胞の配置図をつくるためには、脳を薄く切断することができる技術が必要になります。そのために、ナノメーターの精度で研ぎ澄まされた刃物が求められています」

実際のところ、将来的にファインテックが目指しているのは、2ナノメーターどころではない。ナノのさらに1000分の1単位となるピコメーターの世界だという。肉眼では捉えられないスモールワールドを突き詰めていくと、そこには無限の可能性が広がっている。

これから先、ピコ・ユニバースの冒険に出かけようとする本木に「自身のアントレプレナーとしての熱源は何か」と聞いてみた。

「ピコメーターというと、もはや分子のレベルです。『ピコメーターを目指しています』と大学の先生に話すと、『それは無理だろう。馬鹿なことを言うんじゃないよ』と笑われます(笑)。ですが、無理と言われるとやりたくなるのです。それこそが、技術者魂だと思っています。私は、常に新しい世界の扉を開きたいのです。どこもやっていないことをやらないと、面白くありません。そういう面白さを求める気持ちが、私の熱源です。現在、ファインテックが牽引役となって、この福岡県柳川市に世界最高峰の切断技術をもった企業群を生み出して、全世界から切断を受託する『ブレードバレー構想』も立ち上げています」

株式会社ファインテック

本社/福岡県柳川市西浜武575番地1
TEL/0944-73-0877
URL/http://www.f-finetec.co.jp
従業員数/269名(パート社員含む/2020年10月現在)

ファインテック 代表取締役社長 兼 最高技術責任者 本木敏彦

1953年、福岡県生まれ。高校卒業後、三井三池製作所に入社し、13年間設計に従事。長崎県の池島炭鉱の櫓や横浜ベイブリッジの主塔基礎工事用仮設櫓等の構造設計を担当。1985年6月、ファインテックを創業。2009年2月、基本方針「世界一の刃物メーカーを目指す」を発表。現在も開発の最前線で指揮を執る。

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text by Kiyoto Kuniryo photograph by Shuji Goto edit by Akio Takashiro