2020 Finalist Interview

エコモット 代表取締役 入澤拓也

#04

「環境」「モバイル」「北海道」
コーポレートロゴに込められた想い

間もなく自分の妻になる新婦が結婚式で教え子の園児たちから感謝されているのを見て、入澤拓也は幸せを噛みしめる一方、何か心に引っかかるものを感じていた。

「自分の仕事は誰に感謝されているんだろう。それがなくなっても、誰も困りはしない……」

米国留学から帰国した入澤はクリプトン・フューチャー・メディアに入社し、当時流行っていた携帯電話の着メロを配信する事業に携わっていた。トレンドの先端を行く仕事にやりがいはあったものの、業界は過当競争だった。アイデアを形にしてもすぐに競合にマネされてしまう世界に、入澤は虚しさを感じていた。人の役に立つ仕事がしたい----。その思いは日に日に強くなり、結婚式から8カ月後の2007年1月、退職を決意した。

入澤は、モバイル通信に大きな可能性を感じていた。また、当時は社会の環境への意識が高まった頃でもあった。モバイルを使って環境保護に貢献できないかと考え、入澤は翌月にエコモットを設立した。ロゴの「ECOMOTT」は「ECO」が環境で、「M」が折りたまれた携帯電話、「TT」が北海道の「北」の字をイメージしている。つまり、「環境」「モバイル」「北海道」にこだわる入澤の姿勢を表している。

とはいえ、入澤に具体的なプランがあったわけではない。ところが偶然聞いたアパートオーナーの悩みにより、歯車は回り始める。当時は原油価格が高騰しており、そのオーナーは、ロードヒーティングの燃料コストに頭を悩ませていたのだ。

北海道の駐車場には、路面に敷設されたパイプを温水が循環することで積雪を防ぐロードヒーティングという融雪設備が設置されているが、水を温めるボイラーの動力は灯油などの化石燃料だ。ロードヒーティングはセンサーが降雪を感知して電源が入る仕組みだが、積雪しないちょっとの降雪でも反応してしまうため、無駄な燃料消費が多い。それをモバイルで効率よく管理することで削減できないか。入澤はパーツを取り寄せると、早速試作機を製作した。

「駐車場に赤外線カメラを設置し、モバイル端末に接続しました。その映像を遠隔地で確認しながらロードヒーティングの電源を操作してみたところ、狙い通りでした」

融雪システム遠隔監視ソリューション「ゆりもっと」の完成だ。07年の夏に製品リリースの準備を進めたが、問題はどうやって販売するかだった。

入澤は前職でプレスリリースの勉強をしていたことから、次の冬を控えた10月にプレスリリースを発表してみた。すると奇跡が起きた。資本金10万円、社員がひとりもいない会社のそれを、日経新聞が掲載したのだ。「“カーン”とゴングが鳴った瞬間」だったと入澤が当時を振り返る。早速、電気工事会社に務めていた男性から製品を販売したいと問い合わせがあった。男性はマンションの管理会社によく出入りしていたため、そのパイプを活かし、4カ月間で100台以上を売ることに成功した。

その後、製品のブラッシュアップを重ね、現在ではAIと同社の社員が24時間監視して約2,000軒のロードヒーティングを管理。1㎡あたりの灯油の平均消費量を20ℓから10ℓに削減することに貢献している。

ひとつも売れない失敗作から
生まれたコアプロダクト

いきなり100台以上が売れ、このまま事業は順調に行くかと思われたが課題があった。「ゆりもっと」は、ロードヒーティングが稼働する冬場しか売れないのだ。夏場に売れる製品はないか。入澤が北海道らしい課題として考えついたのは、農業だった。

「当時は食の安全が問題になっていました。トレーサビリティ確保のため、生育を見守るシステムを開発しました」

畑の真ん中にソーラーパネルとカメラを設置し、携帯通信回線を通じて画像を送る「カカシくん」だ。ところがひとつも売れなかった。

ビジネスの厳しさを思い知らされた入澤だったが、話は思わぬ方向に進む。ある人から、「建設業界で使えるのでは」と助言されたのだ。入澤はすぐに方向転換し、建設現場の安全を管理する製品を開発。09年にリリースした建設情報化施工支援ソリューション「現場ロイド」は大ヒットし、現在では同社の稼ぎ頭となっている。

これによって事業は軌道に乗ったが、入澤の価値観を揺るがす出来事が起こる。東日本大震災だ。「現場ロイド」では、港湾の工事現場で津波を知らせるシステムも提供していたが、それらは工事の完了とともに撤去されてしまう。テレビで映し出される被災地の凄惨な光景を目にしながら、入澤は無念さをにじませていた。

「もっと救えた命があったはずなんです。それからはIoTで命を守ることにコミットメントし、社会のインフラへの寄与を決意しました。今では水位観測や地滑り予兆管理など、多くの防災ソリューションを手掛けています」

さらには交通事故から命を守るため、法人向けに交通事故削減ソリューション「Pdrive」をリリースした。ドライブレコーダーに通信機能を搭載することで、社員の運転状況だけでなく社用車の稼働状況を見える化し、無駄の削減にも寄与する。

BtoBtoCにも注力
北海道発の新しい技術を世界へ

入澤はBtoBtoCのソリューションにも力を入れている。そのひとつ「AITELL(アイテル)」は、飲食店に設置されたモバイル通信機能付き画像センサーから送信された画像を基にAIが空席状況を判断し、LINEを通じてユーザーに店の混み具合を知らせる。3密を避けることができるソリューションであり、コロナ禍で引き合いが増えている。

IoTの社会実装によって多くの課題を解決してきた入澤は、なぜ北海道にこだわるのか。その熱源を聞いてみた。

「北海道ならではのことをやりたいんです。北海道で起業するからには、なぜそれを北海道でやるかという明確な理由がないと難しいと思っています。たとえば人事管理ソフトだったら、東京に行ったほうがいいわけですから。北海道は農業、漁業といった地場産業だけでなく、自動運転のテストコースが多く、MaaS(モビリティアズアサービス)のような最先端の分野からも注目されています。北海道発の新しい技術を世界に発信していきたいですね」

入澤は海外展開も視野に入れている。地滑り監視ソリューションは、政府開発援助(ODA)を通じてインドネシアですでに導入されている。厳しい気候や自然のなかで育まれた北海道発のIoTソリューションが世界に広まる日はそう遠くない。

エコモット株式会社

本社/北海道札幌市中央区北1条東2丁目5番2号 札幌泉第1ビル 1階
TEL/011-558-6600
URL/https://www.ecomott.co.jp
従業員数/127名(2020年6月末現在、臨時従業員含む)

エコモット 代表取締役 入澤拓也

入澤拓也◎1980年、北海道生まれ。米ワシントン州HighlineCommunityCollege卒、小樽商科大学大学院商学研究科アントレプレナーシップ専攻修了。2002年、クリプトン・フューチャー・メディアに入社し、携帯電話コンテンツの企画・開発に携わる。07年、エコモットを設立。17年、札証アンビシャスに上場。18年、東証マザーズに上場。

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text by Fumihiko Ohashi | photograph by Masahiro Miki | edit by Yasumasa Akashi